昔の話です。
名前は仮名です。
晩秋を迎え、肌寒くなっていた頃のこと。
その日の夜、いつものように男友達のハルキと馴染みの店で飲んだあと、話をしながら帰っていた。
ハルキは以前私が勤めていた職場の同期だった。
研修も配属先も一緒の社員は他にもいたけれど、私があの職場を去ってから以後も顔を合わせているのは、今となっては彼を含め2人だけ。
「研修のときにお世話になったヤマダさん覚えてる?春に結婚するんだって」
そう教えられ、私の頭の中にぼんやりと顔が浮かんだ。
(結婚していた人じゃなかったっけ?)と思い返したけど、聞くとバツイチらしい。
酔いに任せて「そうなんだ。筒抜けだね。あぁ、でもあんなに太っててハゲててもねー、結婚できる人は何回でも出来るよね」と言った私に、「相変わらず嫌いなんだな」とハルキは笑った。
そして、「あまりハゲをバカにしていると自分が痛い目に遭うぞ」と忠告された。
「ハルキくんだってヤマダさんのこと、『人遣いの荒いデブ』って言ってたよね?」
「人遣いの荒いは言ったけど、デブって言ってたのはエミ(私)だよね」と突っ込まれた。
たしかに私はヤマダさんが苦手で、ハルキには愚痴をこぼしたことがある。
セクハラの件で部長に相談したこともあった。
・・・結婚か。
そんな話を聞いても、私にはちっとも羨ましいとは思えなかった。
私はその8ヶ月前、3年付き合っていた彼氏に振られた。
私の中での3年は長く、ダメージは自分で思うよりも大きかった。
女としての自分にも自信をなくしていたのだと思う。
元カレは別れ際、私に、「結婚したいほど好きな人が出来た」と言った。
(『好きな人が出来た』でいいじゃない・・・)と思った。
しかもその相手は、私の前に付き合っていた元彼女だとまで言うのだから。
変なところで正直な人だった。
要するに私には結婚したいほどの魅力を感じなかったということだ。
それは仕方ないにしても、あっさり復縁するのは、私と並行していた時期もあったのだろうなと思ってしまったりもするわけで。
終わり方がそうだったこともあり、元カレとの3年間の思い出がガラガラと崩れてしまう。
思い返せば、今まで自分から振ったことなど一度もない。
恋愛や結婚のことを考えているだけで気が滅入りそうだった。
その日は、「ペース早くない?」と心配していたハルキをよそに、いつもよりお酒が進んでしまった。
人の幸せ話を聞いただけなのに、思い出したくもない元カレの顔を思い出す。
ふわふわとした足取りで歩きながら他愛もない話をしていたら、駅近くのレンタルビデオ店が目にとまった。
「ねえ、ビデオ借りてくるね」と横断歩道に向かう。
「先に駅へ行ってて」と伝えるも、ハルキは相変わらずおかしな話をしながら後ろについて来た。
近頃の週末は特にすることもないから、映画を観てお酒を飲んでいると話すと、「枯れてるな」と彼。
ビデオを選んでいると、「今日、顔薄いよな」と指摘された。
「どういう意味?」
「いつももっと書いてるじゃん、目とか」
「ああ、化粧?今日は5分メイクで来たから」
今日遊ぶ約束は前々からしていたけど、服もほぼ部屋着で出てきてしまった。
我ながら失礼な女だけど、ハルキだから別に気にしないだろうと思った。
「エミってあんまり化粧しないほうが良い感じだね」
「褒めてるのかい、それは?」
この男はこういうことを普通に言う。
きっとなんとも思っていない。
「うん」と頷く彼は悪戯っぽく笑って見えたものの、イヤミがなかった。
ビデオ棚を見ていた彼の頭を下から見上げたとき、一本の若白髪が目にとまる。
「あー、それね、この間から生えてる」と言うので、「たぶんもっと生えてるよ。探してあげよう」と手を伸ばすと、「酔っぱらいさん結構です」と掌で後頭部を抑えられてしまった。
腕を伸ばして彼の頭に手をかざそうとしたものの、この高さでは届かない。
ベタベタの恋愛ものに関心がなかった私はサスペンスとホラー映画を借りた。
けれど、その辺りもハルキと気が合った。
「こういうのばっか好きだよな」
そう言われたけど、私も本当はついこの間までは1人で恋愛・失恋ものを鑑賞してボロ泣きぐらいはしていた。
ハルキには言わない。
お互いほろ酔いのせいか、下らないことで笑いながら歩く。
しょうもない酔っぱらい女だと、きっと呆れていると思った。
酔っぱらいの行動は恐ろしいものだ。
それから何を思ってそうなってしまったのかは今となっては上手く説明ができないけれど、私より3つ手前の駅で降りていくはずだったハルキに絡んでしまった私は、彼を自宅へと引き連れてしまった。
映画の話で盛り上がってしまい、一人で鑑賞するよりも楽しいほうがいいと思ってしまったのは理由としてある。
所在無げに立っていた彼を居間に招き入れ、お茶を出す。
飲み足りなかった私は缶チューハイに手を出した。
お酒のせいなのか、ハルキの前だとつい気が緩んでしまうのか、普段の帰宅後の一人の時間と同じように過ごしてしまう。
本当は服も着替えてしまいたいところだった。
いつもなら早送りする映画宣伝を流したまま雑談していたとき、恋愛ものの宣伝ばかり目についた。
ふとハルキに、「彼女作らないの?」と聞いてみた。
「ん?うん。出来ないだけだけど」
「そんなことないでしょ?」
「あるある。良いなと思った人には振られたことしかない」
会話が途切れた。
そう言えば私もそうだ。
「そか。泣いていいよ、私の胸で。冗談だけど」
「無い胸で?」
「そう。あんまり無い胸で・・・ひどいなアンタ」
「無いって自分で言ってたじゃん(笑)。別に泣かない(笑)。というかまあ、別にエミみたいに落ち込んでないから俺は」
「私も別に落ち込んではいないよ」
「ならいいけど。でも寂しいんでしょ?」
「寂しいって?」
「最近よく電話とかメールくるし。飲みも増えたし。それにさっきも絡んできてたし」
「それはごめん。まあ一人で居たくない時があるというか、気晴らし」
「じゃあやっぱり駄目になってたんだ、彼氏と」
「うん」
「ねえ、乾杯しようか?」
雰囲気を変えようと思いチューハイを握った私。
「乾杯?俺の麦茶じゃん。なんの乾杯すんの?」
「なんとなくの乾杯。私はもう頑張らないけど、乾杯」
「頑張らないの?」
「うん。もうしんどいから(笑)」
「見る目がない男だっただけだって」
「あぁ、それね・・・。ありがとう」
「俺なら、エミみたいな子が彼女だったら嬉しいけど」
またどうせいつもの軽口だと思った。
「いつから胸の無い子が好みになったの?」
内心、照れ隠しで言ったつもりだった。
でもハルキは笑っていなかった。
本編の映画に集中しようとしたそのとき、首に温かい感触が伝わった。
状況が理解できたときにはもう私の首元に彼の腕が巻きついていて、背後の彼が抱え込むように座っていた。
どう反応をすればいいのか判らなかった。
「映画見るから、おふさげは後で」と、努めて冷静に言うのが精一杯だった。
それが彼の気に障ったのかもしれない。
「ふざけてない、こっち向いて」と肩を掴まれ対面させられそうになった。
振り払うつもりで腕を動かしたつもりが体勢が崩れ、私だけ横向きに倒れてしまった。
「ああ、もう、今の字幕見逃したじゃん」
笑いながらリモコンで巻き戻そうとしたら、リモコンまで後ろ手で隠される。
「腕ぶつけた?」と腕に触れてきたハルキを遮り、「ねえ、ちょっと、ちゃんと観ようよ」と向き合った私。
彼の大きな身体にも似合わない人懐っこい子犬のような丸い瞳に、半ば訴えるように視線を注いでやった。
けれど何も言ってくれない。
ちょっとまずいと感じ取った直後、そのまま抱き寄せられてしまった。
(もしかしてハルキは、私を慰めようとしてくれているのだろうか?)
ぼんやりした頭で考えた。
向こうからすれば、男に振られ、酒を飲んでやさぐれている女にしか見えないのかもれない。
自分が情けなく思えた。
彼の胸を押しのけようとしたとき、ふいに額に熱を帯びた感触が伝わった。
あ、と思った直後、その感触は私の唇に移動していた。
力の抜けた行き場のない私の手とは違い、優しく這うように押し当ててくる彼の唇は止まってくれる気配がない。
手を握られたとき、反射的に払いのけてしまった。
同時に唇が離れたと思いきや、彼の顔はまだ至近距離にある。
その気まずさに視線を落とした瞬間、再び首元に柔らかなものが当たった。
「・・・やっ」
咄嗟に伸ばした私の手を押さえつけると、彼は身体ごと被さってきた。
髪を撫でられる感覚に顔を上げたら、ハルキが私の顔を覗き込んでいる。
「嫌?」
少し掠れた声で問いかけられた。
困惑していた思考回路を整理しながら、なぜか私は初めてあの会社で顔を合わせたときの彼を思い出した。
この人は今、何を考えているんだろう。
いつものように軽口を叩いて、からかっている姿とは違うのは確かだった。
私は約3年もの間、友達だと思って接してきた。
この状況だって、心の片隅では「冗談だよ」と言ってくれることを期待していた。
ふいに仲が良かった友達の、「友達って思ってたってさ、異性はそんなのわからないよ。チャンス窺ってるもんなんだよ。同性同士ならともかく」という言葉が頭をよぎってしまった。
浮かんでくる元カレの顔。
私は表情を変えずに、「嫌じゃないよ」と、彼の目を見て答えた。
口にしたあと、半分後悔した。
ハルキの表情が読めない。
頬に触れていた彼の手がほのかに温かった。
頬をふにふにと突っついてくる。
もう、いいや。
私の中で何かが切れた。
「こっちのほうが柔らかいよ」
彼の手を掴み、自分の胸元へ寄せる。
手の温度が服越しに伝わってきた。
けれど、そのまま上に滑らされ両頬を掌で包み込まれた。
「顔あげて」
言われるがままにすると、唇が重なり、今度は舌が入ってくる。
さっきよりも深いキスのあと、彼の片手が服の下を這う感触に思わず吐息が漏れてしまった。
なるべく平然を装うとしても、お構いなしに胸を弄られ乳首を弄ばれるたびに身体が反応してしまう。
いつの間にかシャツのボタンも下着のホックも外され、胸が露わになっていた。
向こうは着衣のままなのに、私だけが乱れた姿を晒していることに恥ずかしくなる。
視線を感じても目を合わせられなかった。
私の腕を掴むと、彼が胸に顔を埋めてくる。
「・・・んっ」
唇が乳首に触れたと思うと、舌先で好きに弄ばれた。
「そこ、だめ・・・」
もう片方の乳首が彼の指先で転がされる。
止めたくても腕が動かない。
「ちゃんとあるじゃん」
ハルキが確かめるように胸にほぐしながら、私の表情を窺っていた。
「・・・これでも一応Cはあるんだよ」
「彼氏に揉まれて成長でもした?」
なんでそこで元カレの話するの?
あの人の元彼女がFカップだったとかよく聞かされたことがあったから胸に自信なんてなくなっただけだった。
「もっと見せて」
そう言われると明るい照明が気恥ずかしくなり、彼の手を引いて隣の寝室へ向かう。
ベッドに腰掛けるや否や、シャツを脱がされ腋を責められた。
思わずくすぐったさに身をよじる。
スカートの上部に手がかかったとき、ハルキの手首を掴んだ。
「私だけ脱いでばかりやだ」
私の言葉を聞いて、シャツを脱ぎ捨てた彼を見ると、自分で言っておきながら今さら気まずい気持ちになった。
広い肩や厚い胸板が視界に入る。
こちらの戸惑いなど気にする素振りもなく、捲りあげられたスカートの下に彼の手が伸びてくる。
湿った隙間を指が滑っていく感触に耐えていると、「・・・すごい」と呟きが聞こえる。
脚に力を込めて閉じようとするも、あっという間にショーツが引き下ろされた。
脚を開かれ、内腿に彼の唇が辿っていく。
差し入れられた指に焦らされ、内腿と上半身に刺激が伝わる。
探り当てられ、掻き回されるたびに、ふいに仰け反りそうになる。
するりと動く指に弄ばれるままになっていると、「こんなにスムーズですけど」と顔を覗き込んできた彼の表情が綻んでいるのがわかった。
自分でもわかっていた恥ずかしい状況に返す言葉がない。
「うー・・・」
声をあげそうになりながら何とか口を塞ぐも、吐息が漏れてしまう。
目を開けてしまうと、見下ろしている彼と目が合った。
やっぱり恥ずかしくて目を伏せるしかない。
押し広げたままそこへ顔を埋められてしまうと、もう耐えられる気がしなかった。
「だめ、シャワー浴びてない・・・」
制止しようとしたものの、柔らかな唇が当てられ動かされると力が抜けていってしまった。
吸いつくように這い、貪られるような感覚にそれだけで火照りを覚える。
「・・・あっ・・・ぃやっ・・・」
押しのけるつもりが膣が反応してしまい、それどころではない。
彼の腕に手をかけ掴んでしまった。
最後にまた声があがりそうになったのを唇を噛み締めて堪えたあと、横たわっていたらハルキの顔がすぐ傍にあった。
「大丈夫?」
こっちを真っ直ぐに見つめながら聞かれ、思わず首を縦に振った。
顔が熱い。
捲りあげられていたスカートを脱いだあと、同じように一糸まとわぬ姿になった彼に身体を寄せられる。
「いい?」とたずねる彼の頬にキスをすると、ベッドから立ち上がったハルキがすぐに居間から戻ってきた。
ベッドに座り込んでいた私に触れる。
ゴムを付けていた彼を見やると、目が合った。
「・・・いつも持ってるの?」
「非常用」
非常用って、他の女の子?
「女の子と会う時の非常用常備?」
「ん、生のほうが好き?」
駄目だ、会話が噛み合わない。
「そうじゃない」と言った私に手を伸ばしてきたと思うと髪をくしゃくしゃと触ってきた。
後ろに倒されたあと、彼の唇が耳元に触れる。
慣れない感触に顔を背けても、頬へと唇へと這ってくる。
彼の首に手をまわしてしがみつくと、全身に心地いい重みがのし掛かってきた。
ハルキの身体が熱いのか、私が火照ってるのか。
大きな温かい身体に包まれているだけで安らかな気持ちになってしまう。
だけど同時にこんな姿で抱き合っていることが、つい少し前までの彼と過ごしていた自分とひどく遠く別次元に思えて切なくなった。
気持ちが矛盾していて、どうしたらいいのかわからない。
「エミ、可愛い」
そう囁かれたと思うと、身体を起こした彼にゆっくりと脚を押しひろげられた。
熱を帯びたものが宛てがわれたあと、彼が私の中に入ってくる。
「んっ・・・」
少し進められただけで、麻痺したように鼓動が波打ってしまう。
自分の身体がいつもと違うようだった。
「痛くない?」と聞かれても、声にならない。
少しの一呼吸のあと、思わず、「奥まで、・・・来て」と自ら彼を呼び入れてしまった。
「ん?」と声が聞こえたかと思うと、腰を抱えられ腿を抑え込まれる。
彼の腰が振動するたびに襞が密着感でいっぱいになっていく。
さっきまでそそり立っていた彼のモノが、私の膣奥を次第に押し上げた。
時折、堪えていたものが抑えられずに喘ぎ声に変わってしまう。
微かな呻きに気をとられて目を開けると、見下ろしていたハルキの表情が少し苦しげに見える。
奥を突かれるたびに、淫らな音と乱れていく呼吸が重なる。
寄せられた身体に小刻みに彼の腰が打ちつけられ、角度が変わるたびに身を捩ってしまう。
「あっ・・・やぁ」
口を塞いで声を静めようとする私を見越してか、手を力強く押さえてくる。
その力に適わずシーツを掴んで耐えた。
両足で彼の腰を挟み込むと、そのまま腰を止めることなく勢いよく突き上げられる。
見たことのない彼の荒い息遣いを間近で耳にすると、余計に気持ちが高ぶってしまい、次第に声を抑えようとする余裕もなくなってしまった。
「ゃっ・・・だめっ!」
胸を責められたあと激しく腰を打ちつけられ、一気に突かれると奥底で痺れるような感覚に陥る。
「ああっ、あっ・・・!」
息が止まるような浮遊感が漂うと、腰の弾みとともに全身に行き渡るような快感の波が押し寄せた。
間髪を入れずに彼の振り立てていた腰の動きが大きく揺れたあと、また同じ感覚に包まれる。
おかしくなってしまう、と思った。
視界がぼやけてくる。
声にならないまま息をあげると、身を委ねた彼が倒れこんできた。
呼吸を整えるようにシーツに身体を押し付けると、膣が痺れているのがわかった。
ふと薄暗い部屋の中で、肌寒さと陽ざしを感じて身体を起こした翌朝。
ぼんやりと部屋を見渡すと、横でハルキが寝息を立てていた。
しばらくの間、無の状態を過ごし、シャワーを浴びた。
頭がぼーっとして、気が付くとボトルのノズルを何度も押してしまっていた。
少し気を緩めてしまうとハルキの顔が浮かんでくる。
お湯でもこの時期の朝浴びは寒かった。
早く出たいのか遅く出ようとしているのか自分でもわからない。
それでも私は平静を装い着替えた。
起きていたハルキと普通に話し、彼が帰るまでいつものように接する。
けれど彼がその日帰ってから、自分から一度も連絡は出来なかった。
ハルキが何を思ってああしたのか、本当は気になっていた。
それを別に問い詰めたいわけではない。
ただのその場の雰囲気や、一回きりも考えられるし、別に私でなくても出来ただろうと思った。
だけどその後、一人で部屋を片付けていると、急に悲しさがこみ上げた。
気持ちがなくたって、できる人はいる。
私は一度だって、恋人とは別の、付き合ってもいない人と寝たことなどなかった。
部屋に交際している人以外の男性をあげたのもハルキぐらいしかいない。
友達でいれば気楽なのに、どうして私はあんなことしたのか。
寂しかったからだろうか。
なんでこんな不安定な気持ちなるのか・・・。
あの日に振られてから、女としての自信がなくなってしまったからだろうか。
友達に戻ればいい、普通に接すればいい・・・。
そう思うのに、あの夜以降は連絡が出来なかった。
あの日のことは忘れよう、となったら本当に戻れるんだろうか。
ハルキが疎遠になったらどうしよう、寂しいと思ってしまう自分がいた。
寂しさを埋めるために彼の誘いに乗って、勝手に虚しくなって、バカみたいだな私。
なんで今、落ち込んでるんだろう。
その翌週、ハルキから出掛けないかと誘いの連絡が来た。
言いたいことはあったのにいつも通り、その場ではふたつ返事をしてしまった。
彼との約束の当日に会話が途切れたとき。
元カレと別れてから色々と連絡してしまって、ごめんと謝った。
遊びにつき合わしては、あなたの優しさに甘えていたと。
反省していること、でもとても救われていたということも伝えた。
ハルキは、謝る必要はないと私に言った。
そして、「エミが落ち込んでるのをわかっていて、あわよくばと思っていた俺の方が最低だった」と。
「そのことなんだけど・・・」と切り出そうとしたとき、彼が続けた。
私の家に誘われたときに葛藤していたということ。
そして・・・。
「エミがあの職場をやめたのは、彼氏と結婚するからだと思った」
「でも違うと知って、遊びに誘うようになったのも元はと言えば自分のほう」
「元気になってくれるなら、前みたいによく笑ってくれたらそれが嬉しかった」
いつも調子のいいことを言っていた彼に、静かにぽつりと言われ、ただ聞いていた。
「抑えられなかった俺がだめだから怒って」と言う彼に、「でもあなただから幸せだった」と答えたとき、どこか薄赤い顔をしている彼を見ると、私ももう自分の気持ちに整理がついていると思った。
「あなたのおかげで元気になれている。これからも傍にいてください」
いい友達だと思っていた彼に、そう本心を打ち明けても、それまでとは大きく変化はしなかった。
ただ、それまでとは違う意味で気を許すようになった。
喜びや悲しみを分かち合う以外にも、甘えたり嫉妬したり。
下らない喧嘩をしたり、普通の恋人と過ごす時間へと徐々に変わり、あのとき伝えた言葉のとおり、ハルキは傍にいてくれている。