階下に、貧乏しとる還暦前のおっさんが単身で住んでいる。
午前中、荷物を預かってくれてた事もあり、おっさんをたずねると、
「ワシ、この生活抜け出せそうや」
またよからぬことやっとんなと思いつつ、台所で茶を飲みつつ話を聞くと、話は大体こんな感じだった。
「一週間前にヒマ潰し思て、出会い系に登録してみた」
「そしたらすぐ100通とか届くんよ、これとかこれとか・・・この娘なんか『処女でいるのが恥ずかしい、50万で私を抱いて』言うねん。写真これ(おもくそギャル。キャプションに「真美富豪の娘」と)。この人なんかな、離婚して慰謝料330万もろてんけど、人生つまらんから思いきって使いたい言うてな。50歳や言うねんけど、この写真、どう見ても20代にしか見えんやろ?」
「ワシも『毎日でもエッチいけます』とか書いてね、まあそんな毎日は無理やけど、腰も痛いしな〜わはは、でも今でもいくらでもいけるよワシ」
「でな、この人とずっとやり取りしててな、この写真(叶姉妹の妹みたいなの)。他のは裸の写真やらオナニーしてるのやら送ってくる、凄いねん。でもこの人はちゃうねん。貿易会社に勤めてるんやけど、ホストクラブやらに貢ぐのに疲れた言うてんねん。それやったら信用置ける人にてな、ワシの事気に入ってくれててな、こういう事情やからワシも信用できんねん」
「付き合ってくれるなら1000万くれる言うねん」
「もう夜も眠れない言うて、夜中もメールくるし、仕事の合間にしょっちゅうメールくんねん。これ来た時間を書き留めたやつ。もうこの1週間で200通もきてんねん。真剣やねん」
「さっきの330万かて、中途半端な額やろ。ウソじゃ書けへん」
「この前会おういうことになって駅で待ち合わせしてんけど、改札がいっぱいあってな。連絡しようとサイトに問い合わせるんやけど、返事が来ん。そういうメールを取り次がんのよ。ワシがよう使うと思って、サイト側が邪魔しよんねん。せやから何度も文句言ってやった。それを証拠に次にその子からメール来ても、ワシの送ったのと全然噛み合わん」
「前なんか、他の子でワシのためにサイト料20万を振り込んだけど、それはダメ言うて送り返したてサイトから連絡が来てん。『何勝手な事しくさんねん!訴えるぞ』て送り返したわ」
「もう、1週間やけど、これで10万は使たかな〜・・・、ほんまタバコも買えへん」
「今日3時にまた約束したんよ。会社の仕事早く終わらすって。車がいる思て昨日日産行って車も見積もりとった・・・、え、金?その人の名義で買うから。車?フェアレディZ。車いるやろ?」
「ワシが何て名乗ってるか?いや、『名無し』やで」
「・・・仮に会えたとしてその人が『やっぱびた一文払わん』言うたらどうすんの?」
と聞いたら
「それはない!」
の一言やった。
「サイトでかかった金も会ったら払ってくれるって言うねんもん」
もちろん、俺は午前中長い時間かけて、罵詈雑言も含めあらゆる言葉を費やし、説得を繰り返したが、これまでも知り合い友人等々から寸借サギ、サイフ持ち逃げなどなど散々騙されても、騙されても、今回はガチで信じるとの事だ。
帰り際の彼の一言。
「もし会えたらお祝いしよな、美味いもん食いに行こな。きっとワシエエ顔しとるわ」
今度こそ、地獄行き超特急が走り始めたかもしらん。