忘年会の帰り道、一年先輩と歩いていて女房の話になった。
結婚は俺の方が早かったのでその点では俺の方が先輩だったんだけど。
その先輩が新婚にもかかわらず、俺の嫁のことをあれこれ羨ましがるんで「そんなに言うんならとっかえましょか」と言ってやった。
すると「え?ホントにいいの?マジ?マジ?」って、真顔で言ってる。
俺も酔った勢いで「いいですよ。てか先輩はいいんすか?」
と返すと「ぜーったい、おまえの嫁さんの方がいいわ」だって。
これにはかなり引いたが自分の女房を褒められて悪い気はせんかった。
とここまでは、酔っ払いのたわ言だったのだが、数日後、俺がしでかしたトンでもない失敗で先輩に大きな借りをつくってしまった。
へたすりゃ、即クビもやむを得ない状況だった。
それを先輩が盾になってかばってくれたのだ。
俺にはそんな先輩に返せるものなど何もなかった。
せめてもの償いのつもりで、先輩とその夜飲みに行った。
先輩は俺に気をつかっていたが、やはりかなり上から絞られたらしく酒を煽るように飲んでいた。
口数がだんだん少なくなる先輩に別の話をしようと先輩の新婚生活のことを聞いた。
やぶへびだった。
奥さんとは最初からギクシャクしてたらしく、余計に先輩はブルーになった。
セックスレスって、新婚なのに。
もう殊更にそのことを聞く気にはなれなかった。
俺は忘年会の帰り道での話を思い出した。
「俺ん家、泊まってきますか」と俺が言うと、先輩は「悪いな」と言ってまたグラスを開けた。
俺と先輩が自宅に着いたのは22時を少し回ったころだった。
女房にはメールで先輩を連れて行くとだけメールで知らせておいた。
女房が出迎えた。
それなりに薄化粧して身なりも整えていた。
先輩はやたらに恐縮していた。
女房も俺には「前もって言ってよね!」と迷惑顔をしていたが、俺が正直に会社でのことを話すと平身低頭して先輩に礼を言った。
あり合わせの物で飲み直しをした。
アルコールが入ると女房はやたら明るくなった。
先輩も気が楽になったのか、さかんに女房のことを褒めちぎっていた。
女房の気持ちが和み、緩んでいるのがわかった。
俺は何も言わずに寝室に消えた。
目が冴えて眠気は全く起きてこない。
ダイニングから二人の話し声がTVの音声に混じって、聞こえていた。
しばらくすると女房が寝室に入ってきて、パジャマに着替えた。
俺はわざと寝息を立てていた。
もし布団に入ってきたら先輩のことを聞いて、もう一度なんとかと思っていたが、女房は再び寝室を出て行った。
23時30分を少し過ぎていた。
やたらに喉が渇いてきたが、俺は我慢した。
時間がなかなか進まないように感じた。
寝室の外の音に耳を澄ましてみるがTVの深夜ニュースの声しか聞こえてこなかった。
顔が熱く火照り、喉がカラカラになった。
先輩が女房に欲望のはけ口を求めているだろうか。
女房はそれを受け入れているのだろうか。
異様な心理状態で、俺は蛍光色の時計の針をぼんやりと見ていた。
眠るでなく、ただ目を閉じているだけで股間がカチカチに硬直していた。
深夜、女房が静かにドアを開けて寝室に帰ってきた。
少しの物音でもはっきり目が覚めた。
それだけ浅い眠りだった。
女房がそっと布団に滑り込んできた。
俺はそのとき、ほとんど反射的に背中を向けて寝ようとする女房を後ろから抱きしめた。
普段なら照れ隠しの戯言を言ってはぐらかす女房だったが、そのときは俺の手が胸をまさぐるのを止めようとはしなかった。
女房は一言も発しなかった。
俺も無言のまま、女房の乳房を鷲づかみにした。
女房の肩を引き寄せ、こちらを向かせた。
女房の頬が涙で濡れているようだった。
俺は頬を手で拭い、女房の口を吸った。
嗚咽を押し殺すたびに、女房の横隔膜がかすかに痙攣していた。
涙の意味など敢えて聞かなかった。
俺は女房の体の変化だけは見逃すまいと執拗に愛撫を重ねた。
いつもなら次第に燃えてくるのに、明らかに燻ぶっていたものが一気に燃え上がった。
両足の間に足を割り込ませるだけで、女房の息は苦しそうに乱れた。
指を這わせると、湿っぽい感覚がパジャマの生地からでもわかるほどだった。
先輩の体温を指先に感じてやろうと、パンティを手繰る。
わずかだが、腰を引いて抵抗した。
しかし…。
絶頂があまりに早く訪れたことへの驚きと戸惑い。
それは女房自身も感じていたことだろうと思う。
不思議なもので、それまでに経験したことのないほど激しいセックスをした。
覚悟の上だったとはいえ、理性では抑えられない男としての本能のなせる業だったのだと思う。
すでに過剰なまでにぬめっていた女房。
硬くしこり立った乳首。
上気した頬の熱さ。
シーツを掴む指先。
目の前の光景が少し前まで、他人に晒されていたと思うだけで、息切れしそうなピストン運動も苦にはならなかったのも事実だ。
混乱した頭で俺は最後の放出を女房の口の中に。
「飲め!」どうしてそんな言い方をしたのかわからない。
混乱は混乱を呼んだのか、女房は言われるままにあれを飲み込んだ。
精根尽き果てて、俺はいつのまにか眠ってしまった。
朝、目覚めると女房はすでに起きていた。
昨夜の出来事がまるで夢物語であったように普通に朝食の準備をしている。
ただ私たち家族の食卓のすみで、しきりに髭面を気にしている先輩の姿があった。
昨夜のことなどおくびにも出さないが、3人とも深く心の奥にしまいこんで不思議なバランスを保っていた。
誰かが何かを言い出せば崩れてしまう、ピンと張りつめた緊張感だった。
それから暫くして、人事異動があった。
先輩だけが地方に飛ばされることになった。
原因は先輩の結婚生活の破綻だとまことしやかに囁かれた。
先輩の結婚相手は社長の血縁だったからだが、本当かどうかはどうでもいいことだった。
先輩の事を女房に話した。
送別会のあと、再び先輩を連れてきてもいいかと聞くと、女房は少しも迷惑そうな顔をせず、何を用意しておこうかとか、淡々としていた。
あの夜の事を忘れてしまったのかと、そんな気にさえなった。
敢えてそう振舞っていた方が自然だと判断したんだろう。
ともかく、俺は先輩を再び我が家に招きいれた。
先輩は事の他上機嫌だった。
まるで左遷される人とは思えないくらいだ。
無理に明るく振舞っている様子は微塵も感じなかった。
飲みながら先輩は突然、離婚したって言った。
それで良かったんだと言う先輩。
俺たち夫婦は微妙に困惑した。
女房は女房でどう思ったかはわからないけど、あんまり先輩が明るくさらりと言ってのけたので、なのか、プッと吹き出しやがった。
先輩もつられてゲラゲラ笑い出した。
俺もなんだかわからいまま可笑しくなって笑った。
泣き笑いだった。
お前の嫁さんはいいよなぁとしみじみ先輩がつぶやいた。
俺が調子に乗って「こいつのどこがいいんですか」と言うと、「普通なとこ」だと言った。
「どーせ、平凡な主婦ですよ」と女房が言い、また笑い出した。
酔っ払うと女房はなんでも笑う癖があった。
さんざん飲んだところで俺たちは順番に風呂に入った。
女房が入ってる間、俺と先輩は黙って酒を飲んでいた。
2人きりになると妙に口が重くなった。
先輩の期待を叶えてやるべきなんだろうなと色々考えていると、会話すら思いつかなくなっていた。
でも決心はついていた。
「これを最後にしよう」と思っていた…。
女房が洗いたての髪を拭きながら戻ってきた。
パジャマ姿でも平気なのはほろ酔い気分からなのだろう。
前開きのボタンとボタンの間から、時折素肌が見える。
飲みなおしに乾杯したときに、女房の乳房の揺れ具合がわかった。
ノーブラだ。
俺の視線に気付いたのか、暫くは左腕で胸を隠すようにしていた。
バカ話もネタがつきたころ、頃合を見計らって俺は席を立った。
黙っていく俺に女房は声をかけなった。
俺にはあのときから、ずっと考えていたことがあった。
女房が狂おしく悶える様子を見てみたいという欲求と見てしまったあとの気持ちを推し測っていたのだ。
見てはならないとブレーキをかけ続けてきた。
しかし一方で見たいという邪な心がどんどん膨らんでいった。
これが最後と思う気持ちが俺を思い切らせた。
俺は寝室でそのときを待つことにした。
鼓動が聞こえるほど興奮していた。
我が家なのになぜか忍び足で二人のいる部屋へむかった。
抜き足差し足忍び足、ガキの頃よくそういってつま先だって歩いたものだ。
夜も更けて辺りは深閑としている。
俺はダイニングを出るときに不完全に閉めて出たのに、完全にドアは閉まっていた。
少しの隙間を得るためにも、ガチャリと音がなる可能性が高かった。
物音に気付かれたらどうしようとかなり迷った。
迷った挙句、なんで俺がビビッてるんだ?!開けちまえよ!という悪魔の囁きに負けてしまった。
俺はドアノブに手をかけてゆっくりと下げた。
「カチっ」と小さな音がした。
心臓が口から飛び出しそうになる。
ドアの隙間からダイニング内の音が一気に洩れ出てきた。
俺がビビるまでもなく、かなりの音量でテレビが鳴っていたのだ。
二人が掛けているはずのテーブルに2人の足が見えるはずだった。
普通に飲んでいればだが、、。
俺の予想に違わず普通に飲んではいなかったわけだ。
吸いかけのタバコがそのまま煙を上げており、2人が席を外して間もない状況を察知した。
何よりあやしい雰囲気がダイニング中に充満している。
俺はそのドアの向こうで立ち上がり、あきらめて帰ろうとした。
しかし、次の瞬間、テーブルの向こうの光景が目に入った。
完全に固まってしまう俺。
想像して硬くなっていたモノは縮み上がり、手足に無用な力が入る。
先輩が膝を折り、小柄な女房にすがりつくような形でちょうど胸の辺りに顔を埋めていた。
女房はその先輩の頭を抱えるようにしている。
マザコン?!なんだか母親に甘える大きな男のように見えてしかたなかった。
はっきりとは聞き取れないが先輩が何かを言っているらしく、女房はそれをなだめる様な仕草をしていた。
見た事のないパターンに呆然とする俺。
先輩の性癖を見てしまったことに後ろめたさを感じながらも、気付かれることもなさそうなので、もうしばらく見守ることにした。
先輩はやおら立ち上がると今度は女房を抱きすくめた。
ぎこちない抱き方だが、先輩は強引に顔を近づける。
女房のあごが上がり、口を吸われている。
強烈に舌を入れられながら、荒々しく胸をまさぐられている。
胸元はみるみるはだける。
白い乳房を直に揉まれて、女房の首の辺りはすっかり赤みを帯びていた。
やがて女房は崩れるように床に横たわり、先輩が覆いかぶさる。
俺は思わずしゃがみこんで、二人を追った。
テーブルの下でもつれ合うように二人は動いていた。
見慣れたはずの妻の裸体に異常なまでに興奮していた。
女房の苦しそうな息が、短い叫びに変わったのは、先輩が股間の茂みに顔を埋めたときだった。
先輩は茂みの中心をざらついた舌先で舐め上げ、伸ばした手で乳首を摘んでいた。
女房がたまらず膝を立てると、先輩は顔を上げて両膝をぐいっと押し拡げた。
舌先で器用に剥き出されたクリトリスを、今度は容赦なく指で刺激した。
短い叫び声は嬌声に変わった。
命じられるまま、女房はうつぶせになって尻だけを高く突き出した。
小さな割れ目に指を2本、3本挿しいれられられると、あろうことか女房は尻を振って応えている。
先輩はガチャガチャと慌てたようすでベルトを外し、パンツをずりさげた。
いきり立ったイチモツが後ろから女房に突き入れられる瞬間、俺は悪寒のような身震いをした。
脳が痺れ、全身の血液が逆流しているようだ。
全く別の世界に迷い込んでしまったような浮遊感。
あとは本当にただ呆然と一部始終を脳裏に焼き付けていった。
女房の喘ぎ声も、先輩の背中に浮かんだ玉のような汗も、二人の荒い息の交差も、そして最後の放擲まで。
先輩が背中を丸くして、ティッシュで処理しているところで俺は静かにドアを閉めた。
翌朝、俺は二人の顔をまともに見ることができなかった。
女房は先輩に2度も抱かれたわけで、しかも2度目はそれを見てしまった。
暗黙の了解があったにせよ、胸が締め付けられた。
女房はメガネをかけて朝食の準備をしていた。
普段はさらにノーメイクなわけだが。
そんな女房のメガネ姿を先輩が褒めた。
先輩の目には恋愛の情が浮かんでいる。
女房も微笑みかけたが、一瞬、ビクンとして眉山を寄せた。
女房の体調を先輩は気遣ったが、女房は大丈夫だといい、朝食の準備を続けた。
俺は新聞を広げて聞かない振りをしていた。
先輩がうちを出て行くまで何度か女房はビクンと体を揺らした。
先輩は怪訝な顔をしていた。
俺は気にしない振りをしていた。
もう3人の微妙なバランスは完全に崩れていた。
俺は昨夜みていた事を女房に告げた。
もう一度シャワーを浴びた言い訳を途中でさえぎられて、女房は絶句した。
俺は女房を責めはしなかった。
ただ、出来心なのか本気なのかだけを質した。
女房は本気ではないと言って、ひたすら許しを乞うた。
俺は条件をつけた。
女房はしぶしぶ条件を飲んだ。
翌朝、女房の股間にリモコンバイブを埋め、俺のポケットには発信機があった。
恋愛感情なんて、物騒なものを先輩に持たれては困るし、女房にも自覚を持たせるためだった。
俺たちは先輩を空港まで送って行った。
電波で女房が縛られているとは知らないまま、先輩は機上の人となった。