姉:真美:23歳会社員
俺:真司:21歳大学生
自室でテレビを見ていると、姉から電話がかかって来た。
姉「真司・・・お願いがあるんだけど・・・」
俺「なんだよ?」
姉「あのね・・・言いにくいんだけどさ・・・今・・・ラブホなんだ・・・」
俺「はぁ?なにそれ!」
姉「いや・・・あのね・・・」
俺「なんだよ!」
姉「彼とケンカしちゃって・・・置いていかれちゃってさ・・・」
俺「はぁ?」
姉「私が泣いてる間に、フロントに電話して、一人で帰っちゃったんだよね・・・」
俺「で?」
姉「あたし、お金あんまり持ってなくてさ・・・」
俺「はぁ?」
姉「迎えに来てほしいんだけど・・・」
俺「はぁ?」
姉「ねっ、お願い・・・」
俺「あのねー行くのはいいけどさー。」
姉「ん?」
俺「あんなとこから、姉弟で出て来た所を誰かに見られてみ?変態呼ばわりされるぞ!」
姉「あたしだって、一人で歩いて出るの、イヤだもん・・・」
親にはこんな事言えないだの、お金はあたしの部屋の、クローゼットの中にあるからだの、今度メシ奢るからだの・・・
結局は拝み倒されて、俺は姉を迎えに行く事にした。
言っとくが、俺は免許持ってない。
自転車で20分かけて駅まで行き、電車に20分位乗って、大きな駅近くの、ちょっと引っ込んだ所にあるラブホに向かった。
♂一人で、歩いて入るのは恥ずかしいんだよね。
しかも12月で、クリスマスまであと10日。
案の定、ホテル空くのを待ってるカップルが数組。
その前を真っ赤な顔して通り抜け、待合室からフロントに電話。
姉から聞いてた部屋番号を伝え、なんとか開けてもらい、そのまま部屋までダッシュしたよ。
部屋に入ると、姉がベッドに座ってビールを飲んでいた。
あまり飲めない姉なのに、珍しい・・・。
余程のケンカだったんだろうね・・・。
.
姉「おーありがとー弟よ!」
出来上がってる・・・(汗)
姉「まーお前も、こっち来て飲め。」
俺「姉ちゃん、いいからもう帰ろうよ。」
姉「なにおー!こらっ!お前!あたしの酒が飲めねぇってのか?あ?」
俺「もう遅いしさ・・・こんなとこで飲んだら高いしさ・・・な?」
姉「もう泊まり料金だぞ!勿体無いだろー!あっ!それともあたしとやってくか?あたし、今夜やってないんだよねー。」
俺「ばかか!」
姉「ばかとな何だ!姉に向って~。」
酔っ払ってる姉をどうにかなだめ、どうにか無事にチェックアウト。
「やってくか?」
と聞かれた時は、ちょっとドキッとしたけど・・・。
ところが姉ちゃん、酔ってるからか、ヤケクソなのか、えらくご機嫌で。
部屋を出る時もそうだが、ホテル出る時も大声出しちゃうもんだから、そりゃ目立つ目立つ。
こんな姉ちゃんと、電車に乗って、自転車二人乗りは出来ないって思ったから、タクシーつかまえて押し込んだけど、今度は
「吐きそう・・・。」
だって。
結局タクシーを途中で降りて、無事に撒餌が済むのを待って、またタクシーつかまえて、最後は背負って、どうにか家までたどり着いた。
家に帰ると母親が出て来たから、後は任せてればいい。
玄関に姉を置き去りにして、俺は自室に戻って寝た。
母親の怒鳴る声と、姉の寝惚けたような声が聞こえたけどね・・・
翌朝、と言っても殆ど昼だけど、
「ごめんね~。」
と姉が謝ってきた。
「姉ちゃん、俺とやってくか?なんて言ってたんだぞ。」
と言うと、真っ赤になって、また謝った。
それから2、3日して、部屋でテレビを見ていると、姉が入って来た。
「真司~お願いがあるんだけど・・・」
「はぁ?もうラブホには迎えに行かないぞ!」
そう言って姉の顔を見ると、ちょっとマジな顔。
「な、なんだよ?」
改めて聞くと、
「う~ん・・・」
と・・・
俺「何?」
姉「あのさー・・・イブなんだけどね・・・あんた、予定ある?」
俺、高校の時から付き合ってる彼女がいる。
ところが彼女、短大卒業後に関西に就職しちゃって(俺、福岡ね)、それ以来遠距離恋愛中。
お互いに若いし、なかなか難しくてそろそろ限界を感じてた頃。
ただ言い出せないだけで、気持ちは離れつつあった。
だけど俺の性格上、はっきり別れてないのに、他の女に手出しも出来ない。
働いてる彼女はイブにも帰らないし、予定という予定はなかった。
俺「何もないよ・・・」
姉「○○ちゃん(彼女ね)、やっぱ帰らないんだ・・・」
俺「そりゃそうだろ。正月に帰るんだし、クリスマスには帰省しないって。」
姉「だよね・・・」
俺「で?寂しい俺に、なんかプレゼントでもくれるの?」
姉「いや・・・そんなんじゃないけど・・・」
俺「なんだよ?」
姉「この前、彼氏とケンカしちゃったじゃん?」
俺「あー。」
姉「あんとき殴られたし、もう別れようと思うのね・・・」
俺「そうしなよ。女殴ったり、ラブホに置き去りにするヤツなんて、とっとと別れちまえ!」
姉「うん・・・でもね・・・」
姉「イブにさー、お互いの彼氏を連れて来ようって、友達とレストラン予約しちゃってて・・・」
俺「その為だけにヨリ戻すの?」
姉「いや・・・そのつもりはないんだけど・・・」
姉「そんなに早く、他の彼氏なんて見つからないじゃん?」
俺「一人で行けばいいじゃんか!」
姉「やだよー!まわりはカップルばっかだよ?友達もそうだよ!」
俺「だから?」
姉「一人じゃ行きたくないんだよー。」
俺「じゃ、行かなきゃいいじゃん。」
姉「今更別れましたなんて言えないじゃん。」
俺「言えるっしょ?」
姉「言えないさー・・・こんな機会じゃなきゃ行けないような場所だし・・・」
俺「要は行きたいって事?」
姉「そうっ!」
俺「じゃ、誰か相手見つけて行ってくれば?」
姉「そう簡単にいかないから、相談してるんでしょ?」
俺「俺の友達ったって・・・姉ちゃんが好きそうなヤツは彼女いるし・・・他は一緒に行くと恥かきそうだし・・・」
俺「ま、俺をあてにせず、精進してくれっ!」
姉「・・・真司・・・一緒に行かない?」
俺「はぁ?」
姉「会費はあたしが出すからさー。あたしの彼氏って事で、一緒にどう?」
俺「はぁ?」
姉「私の身近にいる、フリーの男の中じゃ、あんた結構ポイント高いのよ。」
俺「はぁ?」
姉「ねっ♪姉を助けると思って♪お願い!約束したよ!」
俺「ちょっと待ってよ~。」
姉「もう決めちゃった♪」
俺「おいおい・・・」
そんなこんなで24日。
街はカップルで賑わうこの日、俺は姉と出かける事になった。
場所はKナル近くのWシントンホテル。
Kナルのイルミ側で、姉と待ち合わせ。
22:00過ぎまで、姉の友達とその彼氏の前で、多分立派に彼氏役を務めたつもり。
姉の事、「真美」とか、「真美ちゃん」と呼んだりして、解散してからは、本当のカップルは二人だけの時間。
俺ら姉弟は解散前に腕を組んだから、暫くはそのままで・・・(汗)
姉と腕組んだの、初めての事で妙にドキドキ。
家に戻ると、
「もう少し話さない?」
と、姉のほうから言って来た。
「酒、抜きならいいよ?」
と、少し意地悪を言う。
「じゃ、着替えてから部屋に行くね♪」
姉はそう言うと、自室に戻った。
その後3時間位、姉弟でパジャマトーク。
こんなに長い時間、二人でいたのは何年ぶりだろ?
お互いの恋の話し。
もう彼女とは、きっと無理だろうとか、なんであの時、彼氏とケンカしたの?とか、凄く楽しい時間だった。
「もう寝るね。」
姉がそう言い、部屋に戻ろうとした時、俺は姉を呼び止めた。
振り向く姉。
「今日は楽しかったよ♪ありがと♪」
姉も笑って、
「あたしの方こそありがとー♪すっっごく楽しかった~。」
そう言い、笑顔で部屋に戻って行った。
また姉と、どっか行きたい。
口には出さなかったけど、ずっとそう思ってた。
29日に彼女が帰省し、会えるようになっても、会いたいとすら思わなかった。
そんな時間があるなら、姉と一緒にいたい、俺は本気で、そう思ってた。
そして30日の夜。
彼女に対し、あれだけ口に出せなかった言葉が、すんなりと出た。
「もう別れよう。」
年が明けて元日、恋人のいない、いい若者二人が、居間のテレビの前を占拠していた。
それを良しとしない母。
「どっか行ってきなさい!」
これがきっかけとなり、姉と二人で太宰府天満宮に行く事に。
「母ちゃん、ありがとー♪」
正月の天満宮は、とても混雑している。
「はぐれないように、手を繋いでよっか?」
姉のほうから言ってくれて、まさにラッキー♪
「菅原道真さん、ありがとー♪」
参拝し、梅ケ枝餅やたこ焼きを食べて、笑いあう姉弟。
「二人、恋人みたく見えるかな?」
姉がそう言ったから、以後は姉を「真美ちゃん」と呼ぶ。
姉も俺を「しんちゃん」と呼んだ。
早々と帰っても、きっと母に嫌味を言われるだろうから、天神まで行く事にした。
○ウンド1で、ボウリングしたりゲームしたり、マックにて、セットだけで3時間も粘ったり(爆)
太宰府程の人ごみじゃないのに、ずっと手を繋いだままで。
姉がどう思ったか知らないが、俺は、これはデートだと思った。
こんなに楽しいデートは、初めてだった。
時間が経つのが早く、気付いたらあたりは真っ暗だった。
「帰ろっか・・・。」
姉の言葉に頷く俺。
本当は、もっと一緒にいたかったけど。
「じゃ、家に着くまで、手を繋いでようよ♪」
姉はニッコリ笑って頷くと、手ではなく、腕を組んできた。
電車の中でも、バスの中でも。
バスを降り、家に着くまで、ずっと腕を組んだままだった。
家に着いても、門の前に立ち止まり、なかなか庭に入らない二人。
家に入れば、組んだ腕を放さなければいけない。
それが嫌で、俺は門をくぐれないでいた。
「しんちゃん♪」
姉が切り出した。
俺「ん?」
姉「また今度・・・二人でデートしよっか?」
俺「あぁ♪」
姉「じゃー・・・バレンタインまで、お互いフリーでいる事!」
俺「ダメっ!」
姉「え~っ!なんで~?」
俺「お返ししたいから、ホワイトデーまで♪」
姉「分かった♪」
姉はそう言うと、絡めていた腕を放した。
そして俺の顔を見ると、黙って目を閉じた。
一瞬びっくりしたけど、俺も姉の肩に手を置き、唇を重ねた。
姉が腰に手を回してきたから、思いっきり抱きしめた。
いつしか唇だけじゃなく、舌を絡ませるキスに変わっていた。
2月14日、姉を抱きました。
あのラブホで。
3月14日、翌朝まで一緒にいました。
一つのベッド中、二人全裸で。
今は毎日、朝まで二人一緒です。
抱く時もあれば、キスだけの時もあります。
でも、そんな事が嬉しいんじゃなくて、朝まで一緒にいれる事が嬉しい俺です。
二人とも、恋人はいません。
いや、俺は姉を愛し、姉はきっと、俺を愛してくれてます。
姉弟だけど、恋人なんです。
今年のイブ、もしもあのレストランでパーティがあった時は、俺らは本当の恋人同士として、胸を張って行くつもりです。