30代の女です。
これは何年か前、私が勤める保養施設で起きた出来事です。
施設が特定されると何かと差し障りがあるので、一部事実を変えて書いてあります。
その辺はご容赦ください。
その施設は最初リゾートホテルとして建設が決まったんですが、資金繰りに窮した業者が撤退。
周囲に民家もない辺鄙な所でしたから、そもそもリゾート客を当て込むのが無理だったんでしょう。
その後、持ち主を転々として、今はある民間団体が運営しています。
お世辞にも立派とは言えませんが宿泊は可能。
小さいながら屋外プールやテニスコート、視聴覚室もあるので、中小企業の社員研修や部活動の合宿などに使われていました。
ここだけの話、怪しげな新興宗教とか自己啓発セミナーの団体が来たこともあります。
7月だったと思います。
その日の客は『M学園ご一行様』。
申し込みのときに初めて聞いた名前でしたが、なんでも不登校の小中学生を受け入れる全寮制の学校だそうです。
新入生と保護者の1泊2日のオリエンテーションに使うとのことで、たまたま私が担当になりました。
当日の午後、バスで到着したのは、男の子ばかり5人と保護者らしき女性5人、引率の女性教師の全部で11人。
宿泊簿では男の子と女性が1組ずつ同じ苗字でしたから、たぶん親子なのでしょう。
年齢は男の子が11~13歳、ということは小学5年から中学2年くらいでしょうか。
女性陣は先生を含めて全員が30代だったと記憶しています。
日程はごくありきたりというか特に変わった点はありません。
到着して荷解きしたあと、プールで水遊び。
それから視聴覚室でセミナー。
夕食を挟んでもう一度セミナーがあって、あとは就寝まで自由時間と入浴だけです。
夕食時にお酒が出ない(子連れだから当たり前ですが)以外は、他の企業や宗教団体の研修と変わりません。
ですが、どこか変だなという感じもしてました。
まず、子供たちが静かというか大人しいんです。
それまでに何度も中高生の部活合宿を受け入れたことがあるんですが、あの年頃の男の子って、とにかく騒がしいですよね。
施設内を走り回ったり勝手に出歩いたり、そこらで喧嘩を始めたり。
引率の先生が猛獣使いみたいに大声で怒鳴り続けたり。
ところがM学園の子は、セミナー中はもちろん夕食時も借りてきた猫みたいに静かなんです。
「不登校といっても不良少年とか問題行動を起こした子じゃなくて、いじめられたり上手に人間関係を結べなかったりして学校に行けなくなった子供たち」
と、事前に先生から聞いていたので、そんなものかなとは思いましたが。
それでも食事中、隣りの子とお喋りひとつしない様子はかなり異様に感じました。
初日、施設からテニスコートを挟んで100メートルくらい離れた所にあるプールに案内して、設備の使い方とかを説明したんですが、男の子たちはプールでも黙々と泳ぐだけでした。
お母さん方はといえば、ごく普通でしたね。
どちらかと言えばキレイ系で上品な人ばかりで、上流夫人ってほどじゃないけど素敵な奥さんという感じ。
食事中も押し黙った子供たちの横で先生を交えて賑やかに談笑してました。
女性陣も一緒にプールで泳いだんですが、リゾート用なのか結構大胆な水着の方が多かったですね。
まあ、それでも今どきの主婦くらいにしか思いませんでした。
それから気になったのはセミナーの内容です。
1回目のセミナーで視聴覚室に飲料水を持って行ったら、ちょうど皆さんでビデオを見てたんです。
水を注ぎながらチラッと見たんですが、『思春期の心と体』とかいうビデオで、教育用だと思うんですけど、結構際どいというか。
男の子の下半身の写真が映ってたりして、こっちが恥ずかしくなりました。
心に問題を抱える子供の親御さんだし、こういう勉強も必要なのかなとも思いましたが、当の子供たちと一緒に観賞するのはちょっと・・・。
正直、かなり違和感を覚えました。
もちろん私たちスタッフは研修内容に一切関与しません。
新興宗教でも自己啓発でも大事なお客様ですから。
その日も2回目のセミナーの前に先生から、「申し訳ないけど、スタッフの方はセミナー中は部屋に出入りしないで」と頼まれ、その通りにしました。
決定的に驚いたのが2回目のセミナー後です。
視聴覚室を片付けて事務室へ戻ろうとしたら2階からM学園の一行が下りてきました。
全員、夕食時から浴衣姿です。
事務室のすぐ脇が浴場の入口でタオルも持ってましたから、お風呂場へ行くんだなと分かりました。
うちの施設には、男女別で使えるよう大人10人くらいずつ入れる浴場が2ヶ所あります。
その日は一応男女混合なので、2ヶ所ともお湯を張って、それぞれに『殿方湯』と『婦人湯』の暖簾を下げてありました。
一行は私に気付かないらしく、そのまま浴場の方へ。
そしてなんと全員揃って『殿方湯』の暖簾をくぐったんです。
驚きましたよ。
5、6歳の子供ならともかく、思春期の男の子たちですから。
家族湯で親と入浴するのも恥ずかしい年頃でしょう・・・。
子供たちにすれば友達の母親と、母親たちにすればよその子供たちと、先生にしても教え子と混浴だなんて。
他に客がいない貸切とはいえ、信じられませんでした。
「そっちは男湯ですよ」と声をかけるのも躊躇われたんですが、私も思わず一行の後を追って浴場へ向かいました。
自分でも動転していたんだと思います。
でも、どこかに、(もしかしたら浴衣の下に水着をつけているのかも)という思いもあって、確認せずにはおれなかったんです。
もし見咎められたら、「タオルを交換に来ました」と言い訳するつもりで、無人の女湯から何枚か新しいタオルを持ち出して。
脱衣所の戸を少しだけ開いて中を覗いてみると、細い視界に飛び込んできたのは、全裸の男の子たち。
水着はおろか、タオルで前を隠そうともせず浴室へ向かいます。
全員を確認したわけじゃありませんが、下半身は基本的に子供でしたね。
それでも相応に成長してましたし、薄っすらと毛が生えかけた子もいました。
続いて女性陣が視界を横切りました。
タオルで前を覆ってる人もいましたが、やはり皆さん全裸。
先生を交えてお喋りしながら浴室へ向かう様子は、まるで銭湯の女湯かサウナって感じでした。
さすがに脱衣所へは入れず、事務室へ戻って翌日の準備に掛かりました。
2時間ほど経ったでしょうか、浴場の方から話し声が聞こえてきたのでそーっと見に行くと、M学園の一行が出てくるところでした。
入るときと同様、何の変哲もないお風呂上がりの一家のようでしたが、唯一違ったのが男の子がそれぞれ女性の1人と手を繋いで出てきたことです。
一人ひとりの見分けがつかないので、自分の母親かどうかは分かりません。
一見、お風呂帰りの仲良し親子と見えなくもありませんが、背丈も母親と同じくらいに育った少年たちですから、やっぱり妙な感覚を覚えましたね。
翌朝、指定の時刻にモーニングコールをかけて、M学園一行が朝食中に寝間を片付けました。
その夜はずっと一行の正体が気になって仕方ありませんでしたが、(私が変な目で見過ぎなだけ。世間には色んな親子がいるんだから)と無理やり自分に言い聞かせました。
一行が寝間にしたのは和室の大広間です。
施設には個室や2人部屋、3~4人用の和室もありましたが、お客様の希望で全員一緒の大部屋になりました。
20歳過ぎの女性スタッフと2人で布団を上げに行ったんですが、寝間に入ってすぐに異様な雰囲気を感じました。
なんと言ったらいいか、男と女の“あの匂い”が立ち込めていたんです。
空調の関係で部屋を閉め切っていたせいもあるでしょうけど。
正直、うちの施設には色んなお客様が来ます。
男女混合で来た大学のサークル合宿の後には、寝室に同じような例のすえた匂いがすることもあるし、使用済みのスキンがゴミ箱に放り込んであることもありました。
体育会系男子の合宿では、エッチな雑誌と、あれの匂いがするティッシュが大量に残っていたり・・・。
別に利用者の行動に制約はないので、そんな痕跡を見つけても、(あらまあ元気ね)って感じでさっさと片付けたものです。
でも今回は・・・年端もいかない男の子たちです。
匂いだけじゃなくて、シーツには明らかに染みが残ってるし。
ゴミ箱にはスキンこそありませんでしたが、ずっしりと重くて強烈な匂いを放つティッシュが大量にありました。
私は努めて冷静に片付けようとしたんですが、可哀想に同僚の女の子は耳まで赤くしてました。
その子、前日は宿直で、この日はM学園ご一行を見送って勤務を終えるシフトだったんです。
宿直の仕事に夜間の巡回があるんですが、布団を運びながら私に耳打ちしてくれました。
「昨夜の巡回で、真夜中過ぎだと思うんですけど、広間前の廊下の非常灯が消えてるのを見つけたんです。単なる電球切れだったんですけど、取り替えてたら広間の中から変な声が聞こえてきて・・・。最初はエッチなビデオかなと思ったんですけど、明らかに本物なんです。それも何人もの女の人の声でした」
もちろんアノ声のことです。
冗談を言うような子じゃないし、信じられないという顔で話してくれました。
考えないようにしていた前夜からの疑念が一気に頭を駆け巡りました。
M学園一行は朝食を済ませてプールに向かっていました。
前日に設備の使い方を説明したので、この日は一行だけです。
本当は彼らが戻る前に朝食のお膳を片付け、手配した帰りのバスを確認しなければならないんですが・・・。
居ても立ってもいられなくなった私は、その同僚に仕事を代わってもらうと、厳重に口止めして足早にプールへ向かいました。
前に書きましたが、プールは施設から少し離れた所にあって更衣室を兼ねた小さなクラブハウスが併設してあります。
私が到着すると一行はすでに泳いでいるらしく、中から話し声や水音が聞こえました。
私はそっとクラブハウスに入ると、ハウスの窓からプールを窺いました。
自分が探偵か犯罪者になったような気分で心臓がドキドキしました。
私の視界に入ってきたのは、ごく普通の家族の姿・・・に思えました。
男の子たちは相変わらずはしゃぐこともなく黙々と泳いでいます。
女性陣は前日と同じ大胆な水着でしたが、プールサイドのチェアでお喋りしながら日光浴をしてました。
とんでもない痴態を想像してた私は、ホッとしたような、どこか肩透かしを食らったような気分。
10分ほど眺めて、そろそろ事務室へ引き揚げようかと思ったとき、プールに動きがありました。
ハイレグの競泳用水着姿だった先生がプールに向かって声をかけると、男の子たちが次々と水から上がってきたんです。
その姿を見て思わず息を呑みました。
泳いでるときは気付かなかったんですが、子供たちは全員、水着をつけてないんです。
どの子も素っ裸のまま、恥ずかしがる素振りも見せず、プールサイドに整列してます。
昨夜はちらっと覗いただけでしたが、股間には大人になりかけのアレがぶら下がってました。
息を潜めて凝視する私の前で、先生が今度はお母さんたちに何か言います。
すると彼女らは何の躊躇いも見せずに水着を外し始めたんです。
正直、何が起きているのか理解できませんでした。
お母さん方はすっかり水着を脱いで全裸に。
隠そうとするどころか子供たちに見せつけているようにすら思えました。
変な感想ですが・・・。
女性陣は皆さんは、年の割に見事なプロポーションでした。
男の子はといえば、その場に立ったまま母親たちの姿に見入っていましたが、股間のモノがみるみる上を向くのがクラブハウスからも分かりました。
背丈は大きい子も小さい子もいましたが、アレはどの子も結構立派だったように思います。
子供たちの様子を見て、お母さん方は恥じらうわけでもなく、逆に近づいて見せ付けるような格好をする人もいました。
男の子たちの股間は全員、お腹につきそうなくらい反り返って、切なそうに身をよじる子もいました。
現実のものとは思えませんでした。
全員が裸になるのを確認した先生が、さらに指示を出すと、10人が次々とプールに飛び込みました。
最初は水の中で男の子と母親がそれぞれ固まってましたが、やがて徐々に近づくと2つの集団が交わります。
水の中で何かをしているようでしたが、クラブハウスからは見えません。
身を乗り出そうとしたときポケベルが鳴りました。
心臓が止まるかと思いました。
当時はまだ業務連絡にポケベルを使ってたんですが、施設支配人が出勤して朝のミーティングが始まるとの知らせでした。
幸いプールの一行には気付かれなかったようで、私はそっとクラブハウスを抜け出すと、事務室へ戻りました。
ミーティングでは支配人にM学園一行の様子を報告しましたが、とても本当のことは言えませんでした。
1時間もすると一行は何食わぬ顔でプールから戻り、スタッフに丁寧にお礼を言って迎えのバスで帰ってしまいました。
私は挨拶しながら平静を装うのに必死でした。
一行が帰ったあと、支配人に事情を話そうかとも考えましたが、ちゃんと料金も支払ったし、スタッフと問題を起こしたわけでもないので最後まで言えず終いでした。
もっとも一緒に布団を片付けた例の同僚の女の子には他言しないようにきつく言って、私が見たことを話しましたけどね。
その同僚と、「変な宗教団体じゃないか」とか「児童ポルノの撮影会かも」とか色々と推理しましたが、結局、M学園一行の正体は分からず終いです。
身分確認もしてないので、本当のところ宿泊簿に書いてあるのが本名かどうかも分かりません。
それ以前にもアダルトビデオの撮影隊が映画クルーと名乗って施設を利用したことはありました。
施設内外であまりにも破廉恥な行為を繰り返したので、この時は支配人が厳重に抗議しました。
ですが、M学園の一行は撮影機材らしき物は持ち込んでいなかったし・・・。
私は今もその施設に勤めています。
ですが、あんな不思議な団体は後にも先にもあれきりです。