できるだけ観光地でない場所を探して、訪ね当てたところが、この山間にある温泉地でした。
温泉と言っても、野中にある岩場に湯が湧き出しているだけの、囲いも何もない文字通りの露天風呂でした。
近場に一軒だけ小さな民宿がぽつんと建っていて、家の前に『民宿青の屋』の看板がなければ気がつかずに通り過ぎてしまったかもしれません。
民宿の玄関に入り、挨拶すると、廊下の奥から女性の声がして、まもなく暖簾をすり抜けて30代と思える色白の女性が現れました。
女将だそうです。
「泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」
「お客さまは今のところお一人だけでございます。どうぞ、おあがりください」
女将はそう言って、いそいと僕を導いて奥の部屋に入っていきました。
そこはテーブルと座椅子が置かれた居間で、壁際の花瓶には今の季節の花が生けてありました。
「ご住所とお名前、書いていただけますか」
僕の前に差し出した台帳には、先客と思える人物の名前がありました。
『荻原京子(仮名)』
僕はその名前を記憶に留めました。
僕同様、こんな無名の温泉地を訪ねてやってきた女性に、顔を見る前から僕は興味を覚えてしまいました。
「同宿の方は、どんな方ですか?」
「もうじき下りて来られますから、その時にご紹介しますわ」
僕は、女将の入れてくれたお茶を飲みながら、夕暮れの迫る空を映す窓に目をやっていました。
10分ほどして、階段を踏みしめる音が聴こえてきました。
「お見えになりましたわ」
女将がガラス戸を開けに立ち上った。
その時、翻ったスカートの下から太腿が大きく覗きました。
一瞬ちらりと白いものが見え、僕は反射的に目を伏せました。
女将と並んで入って来たのは、五十がらみの品のいい婦人でした。
女将は僕と婦人を交互に紹介すると、夕食を用意するのでと断って部屋を出ていきました。
「嬉しいですわ。宿泊者は私だけと思っていましたのよ」
「僕も、荻原さんのような方とご一緒できて、幸せです」
「幸せとはまたたいそうな。私みたいなお婆ちゃん相手に」
後で女将から聞いてわかったのですが、彼女は独身で、大学で教鞭をとっているとか。
女将が夕食の仕度に部屋から出て行くのを待っていたかのように、荻原が喋り出しました。
「あの女将さん、ここお一人できりもみされているんですって。元々ここでお生まれになって、旦那さんも迎えられたらしいけど、旦那さんの方は都会でお仕事に就かれていて、滅多に来られないんですって」
夕食のテーブルには、この近くの川で捕れた魚の塩焼きや、山菜の天婦羅、猪肉の鍋物などといった民宿ならではの手料理が並び、三人でビールや酒を酌み交わしながら箸で突っつき合いました。
ことのほか日本酒が好きな荻原が冷酒を何杯もおかわりすれば、僕も女将に注がれたビールをぐびくび空けて、そのうち何が何やらわからなくなってしまいました。
ふと気が付くと僕は、薄暗い部屋の中で女将の手をしっかり握り締めて横になっていました。
「お客さんが離してくれないから」
女将が苦笑まじりに言いました。
なんでも僕が彼女にしがみついたままいつまでも離なさなかったそうで、仕方なく一階の自分の部屋に寝床を敷いて、今まで一緒にいてくれたのだそうです。
「このままずっと、一緒にいたいな」
「そんな、わがまま言わないで」
僕は女将の手を引き寄せ、崩れてくる彼女の肩を抱き締めるなり、キスをしていました。
女将はしばらく口を閉ざしていましたが、やがて諦めように僕の舌を受け入れました。
そのまま重なりあって横になり、舌と舌を絡ませているうちに女将も発情してきたのか僕の体を抱き返してきて、下腹部を強く押しつけてきました。
衣服の上からでも彼女の恥骨の上を覆う陰毛のじゃりじゃりする感触がはっきりと伝わっくるのがわかりました。
僕が込み上げる情欲に駆られて女将のスカートをたくし上げると、下着に手をかけ、一気に引きずり下ろしました。
手を太腿の付け根につけるとすでにそこは濡れていて、ネパネパする液体が指の先に絡みつきました。
僕が自分の鋼のように硬直した肉を、彼女の濡れて軟らかな肉の中に突き入れて、腰を揺らし始めると、彼女もそれに呼応するかのように両足を踏ん張って、浮かせた腰を僕に合わせて揺らしだしました。
二人の声が激しくもつれ合い、僕と女将が同時に絶頂に昇り詰め、やがて二人抱き合いながら快感の中に落ちて行った時、僕はふと、誰かの視線を感じました。
薄暗い室内の片隅に目を凝らすとそこに、じっと座った人影が浮かび上がりました。
荻原京子は、僕と女将の行為を最初から見守っていたのでした。
荻原が女将に、見せて欲しいとせがんだそうです。
そういう嗜好のある女性なのかなと思った女将は、やむをえず了承したとか。
荻原は、自分のスカートに手を入れた状態で、うつ伏せになっていました。