少し長くなるけどボクの大切な人との馴れ初めを書いてみたい。

「田中くん、この受注報告書、間違っているわよ」

笹倉さんにそう言われ、

ボクは頭を掻きながら書類を受け取ると自分の席に戻ってどこが間違っているのかを探し始めた。

この道二十年近くのベテラン社員である笹倉さんは手堅い事務で定評のある人だが、

間違いがあることは言ってくれてもどこが間違っているのかは教えてくれない。

“営業のボクは忙しいのだから、

どこが違っているのか言ってくれても良さそうなものなのに”と一人ごちて書類と睨めっこをしているうちにようやく判った。

ボクは受注報告書を訂正すると、笹倉さんのところに持っていった。

「気をつけてね」

笹倉さんは一瞬だけ目を上げてその一言を言うと、書類を受け取ると直ぐにパソコンに視線を戻して自分の仕事に戻った。

二十年のベテランというのだから恐らく年は四十前後、女性にしては背が高くて髪の毛をいつもひっつめにしているので、オフィスでは目立つ方だ。

胸は薄くて小さいが、すらっと背筋が伸びていてよく見ると身体のバランスはとれており、

清楚な感じの中にどことなく品があって、四十前後とは思えないくらい若くて綺麗だ。

とは言ってもいつもメガネを掛けていて、二十代には見られない人生の深みみたいな雰囲気は十分に漂っていた。

笹倉さんは仕事に対して真面目な分、周りの人にはちょっと厳しい。

その結果、若い女の子に給湯室でたまに悪口を言われたりする。

「笹倉さんたらねぇ、”間違っている”って言うから”どこですか?”って聞いても教えてくれないのよぉ」

「わかるぅー、自分がちょっと仕事ができるからって、上から目線なのよねー」

笹倉さんは意地悪ではない。

当然に上から目線なわけでもない。

さっきの報告書だって、本当のことを言うとボクは一ヶ月ほど前に別の報告書で同じところを間違えていた。

笹倉さんは確かその時には何が間違っているのかを丁寧とは言えないけれど、きちんと教えてくれた。

「君たち、自分に非がないなら陰でコソコソ言わないで笹倉さんに直接言ったら?」

給湯室を覗き込むようにして入り口でそう言ってやったら、二人の女子社員は少しむくれて給湯室から出て行こうとした。

ボクを無視して横を通り過ぎたようとしたところで二人の足が止まった。

振り返るとそこにはマグカップを持った笹倉さんが立っていた。

二人は一旦顔を見合わせたあと、バツが悪そうに目を伏せながらそそくさと走り去って行った。

「笹倉さん、聞いてたんですか?」

「何のこと?」

そう言うと、笹倉さんはそれ以上は何も言わずに給湯室に入って行って、手に持っていたマグカップを洗い始めた。

笹倉さんはいつも白っぽいブラウスを着ていて、後ろから見るとブラジャーがちょっとだけ透けて見える。

そんなことがあってから二週間ぐらいが経った金曜日の夜だった。

ボクが接待の帰りで繁華街を歩いていたら、向かいからフラフラと歩いてくる笹倉さんにバッタリと出くわした。

メガネは掛けていなかったけれど、直ぐに笹倉さんだと判った。

「笹倉さん!」

びっくりして思わず名前を呼ぶと、笹倉さんはゆっくりと酔った視線をボクに向けると、

「あっ、田中くんだぁ」

と少し呂律の回らない口調で言った。

「こんなところで何してるんですか!」

ボクの口調に少し非難の色を感じ取ったのか、

「おっ、報告書もきちんと書けない男が何か言ってるぅ・・・」

そう言うと笹倉さんの身体が大きく揺れて倒れそうになったので、ボクは笹倉さんの脇に手を回して支えた。

「あ、田中くん、いま、わらしのおっぱい触ったぁ」

「ち、違いますよ!支えなきゃ、笹倉さん、転ぶところでしたよ!」

「あー、痴漢のいいわけぇ・・・」

“まいったな・・・”

そんな風に呟いていると、笹倉さんはゆらゆらと身体を揺らしながらボクに背を向けてバッグの口を開けたまま歩き始めた。

身体が傾いた拍子にバッグの中身が道に散らばったのに、笹倉さんはそれらを拾おうともせず、お構いなしにフラフラと歩いていく。

ボクは笹倉さんが落としていったものを拾い集めると、”携帯に財布まで落ちてるじゃん・・・”などと思いながらも歩いて立ち去ろうとする笹倉さんに小走りで追いつくと肩を貸した。

ちょうど通りかかったタクシーを拾ってぐにゃぐにゃになる一歩手前の笹倉さんの身体を押し込んだ。

“この泥酔客を押し付けて行ったりしませんよね”

運転手の目がそう語っていたので、ボクも一緒に乗り込まざるを得なかった。

「どちらまで?」

タクシーの運転手に聞かれたが、笹倉さんの住所なんか知らない。

悪いと思ったが、財布を開いてみると免許証が入っていたのでそこの住所を告げるとタクシーは走り出した。

住所を見るついでに生年月日まで目に入ってしまった。

頭の中で計算すると四十歳にはなっていなかった。

気がつくと、笹倉さんはボクの隣でスースーと寝息を立てていた。

いつものひっつめの髪を下して寝顔を見せる笹倉さんの姿は無防備でちょっぴりエロかった。

ブラウスの胸のボタンがひとつ外れていて、ピンク色のブラジャーが少しだけ見えていたのが”ラッキー”と思ってしまった。

笹倉さんのうちはタクシーで二十分ほどのところだった。

“これってボクが払うのかなぁ”

たいした金額ではなかったが、そんなことを思いながらも笹倉さんの財布から払う気にはなれなくて、自分の財布から一万円札を差し出すと運転手のおじさんに露骨に嫌な顔をされた。

お釣りを受け取って笹倉さんをほとんど抱えるようにしながらマンションに入ろうとしたら、当然のことながら鍵がない。

「笹倉さん、鍵は?」

笹倉さんの顔を覗き込んで聞いてみたが予想通り返事はなく、申し訳ないと思ったけれどそのまま放っておいて帰るわけにはいかないので、バッグの中を覗いたらガラスのキティちゃんのキーホルダーがついた鍵が出てきた。

「失礼しまぁす」

返事は期待していなかったけれど、一応家の主に声をかけてボクは部屋に足を踏み入れた。

灯りのスイッチがどこにあるのかわからなくて、暗がりの中で目を凝らしながらベッドを見つけて寝かせつけると笹倉さんがボクに抱きついてきた。

「お水・・・、お水をちょうだい・・・」

“しょうがないなぁ”

そう思いながらもようやく台所の灯りのスイッチを見つけ、食器棚からガラスのコップを取り出して水を汲むと笹倉さんのところに戻っていった。

戻ってみると、笹倉さんはいつの間にか身に着けていた衣服を脱ぎ捨てて、ブラジャーとショーツだけでベッドに横になっていた。

「笹倉さん、ほら、水ですよ」

笹倉さんの身体を抱き起こしてコップを唇に当てたけれど、零してしまってどうにもならない。

白い喉を伝って濡れた首筋がなんだか艶かしかった。

“それにしても笹倉さん、着やせするタイプなんだな・・・”

普段は会社で澄ました態度でいる清楚な笹倉さんとは違って、そこには艶かしい一人の熟れた女性がいた。

“ちょっとくらい、いいよな”

自分に言い聞かせ、ボクはブラジャーの上から笹倉さんのおっぱいに触れてみた。

大きくはなかったけれど、柔らかい感触が掌に触れた。

メガネを外した笹倉さんがかなり端正な顔立ちをしていたのも何だか新鮮だった。

その時、笹倉さんは寝ぼけたまま再びボクに抱きついてきた。

お酒の匂いに混じって笹倉さんの体臭がほのかに香った。

会社でも時々嗅いだことのあるいい匂いだった。

そう言えば、タクシーに乗り込んだ時もこの香りがほのかに漂っていた。

その匂いを嗅いだ途端に、ボクの下半身は暴走モードに突入。

抱き付かれたのをいいことに、笹倉さんの身体を抱きしめてみると華奢な身体だった。

“失礼しまぁす”

一応、挨拶だけは心の中で済ませると笹倉さんの背中に腕を回してブラジャーを外し、台所の明かりを頼りに貧乳っぽいけど形のいい乳房に吸い付いてみた。

「あぁん・・・」

笹倉さんは艶かしい声を上げて一層強くボクの頭を抱きしめてきた。

“いただきまぁす”

いざという時のためのエチケットとして持ち歩いていたコンドームを財布から取り出すと、ボクは笹倉さんの下着を脱がして細くて長い脚を脇に抱えると一気に挿入を果たした。

“えっ?”

笹倉さんの中は温かく、それでいて結構狭くて、それまでに経験した同年代の女の子とはまったく違った感触に包まれてボクは戸惑った。

笹倉さんが目を瞑ったままボクの首に抱き付いてきて、舌が絡み合う大人のキスをされた。

“き、気持ちいい・・・”

そのまま激しく腰を動かすとどんどん締まってきて、あっという間にボクは果ててしまった。

何が起こったのか自分でもわからなかったが、笹倉さんの温かい膣がボクに絡みついてきてあっという間の出来事だった。

笹倉さんに精液がつかないようにそっと抜いて、ゴムの根っこをくるっと縛るとティッシュに包んで部屋のゴミ箱に放り込んだ。

射精した途端、笹倉さんを抱えるようにして家に辿りついた重労働のせいか、どっと疲れが出てきた。

睡魔に勝てずに、ボクは服も着ないまま笹倉さんに抱きつくようにして、そのまま一緒に眠りこんでしまった。

目を覚ますと、もう服に着替えた、というより衣服を身にまとった笹倉さんが床に座り込んでボクを見つめていた。

「おはよう・・・」

「おはようございます」

「・・・」

「・・・」

何だか気まずくてボクたちの間に沈黙が流れた。

沈黙に耐えられなくなったボクは、

「笹倉さん・・・、二日酔い、大丈夫ですか?」

と、どうでもいいことを訊いた。

「あ、うん、ありがとう・・・、あ、それより先に服を着てくれるかな」

笹倉さんはボクの方をあまり見ないようにしながら言った。

見ると枕元にはボクの脱ぎ捨てたスーツのズボンと下着がきれいに畳んでおいてあった。

「顔を洗ってきていいですか?」

ボクがそう言うと、笹倉さんは黙ってバスルーム前の洗面所の方を指し示した。

顔だけを洗って口を濯がせてもらうと、笹倉さんがハンドタオルを渡してくれた。

重い空気が流れていたが、一段落してベッドのところに戻って腰掛けると、ようやく笹倉さんが口を開いた。

「あの・・・、田中くんが送ってくれたの?」

「はい」

「わたし、昨日酔っちゃってて・・・」

「はい、泥酔と言っても過言ではないと思います」

「私、何か変なこと言ってなかった?」

「いいえ。何も覚えてないんですか?」

「田中くんに会ったことは微かに覚えてるんだけど・・・、あの・・・」

「はい」

「私たち・・・、しちゃった?」

「えっ、あ・・・、はい」

「そう・・・」

笹倉さんは小さく溜め息をつくと俯いた。

「あの・・・」

「はい」

「・・・中で出してないよね?」

笹倉さんが心配そうな顔をして訊くので、ボクはちょっとからかいたくなって、

「笹倉さんが”中でイッて”って仰るので、そのままイッちゃいました」

と答えた。

「ええーっ!?」

笹倉さんが本当に困った表情になって、ボクはしばらくそれを眺めていたが、ゴミ箱のティッシュを取り出して開き、中に包んでいたゴムを見せた。

笹倉さんが安堵の表情を見せ、今度は”はぁー”っと大きく息を吐き出した。

「あの・・・、田中くん・・・、昨日のことは・・・」

「はい、わかっています」

「えっ?」

「成り行きですよね」

「えぇ、まぁ・・・」

「わかってますから」

「何があったか訊かないの?」

「訊いてほしいんですか?」

「いえ、そうじゃないんだけど・・・」

「じゃぁ、忘れますね」

「そんなにドライでいいの?」

「笹倉さんはきっと何か嫌なことでもあって、お酒を飲んで忘れたかったところに、ボクと偶々出くわした。二人とも酔っていてエッチしちゃいましたけど・・・、それだけです」

「それだけって・・・」

「もっとドロドロした方がいいですか?」

「ううん。でも、田中くんって、若いのにすごく割り切ってるんだね」

「そんなことないですよ」

「そんなことあるよ」

それを聞いたボクは思わず笑ってしまったが、少し間を置いて言った。

「・・・ただ、女の人にあんまり期待しないようにしてるんです」

「どういうこと?」

「そういうことです」

「?」

「まぁ、どうだっていいじゃないですか。それともボクに興味、湧いてきました?」

笹倉さんは何かを言おうとしたが、そのまま言葉を飲み込むと小さく首を横に振った。

「じゃぁ、ボク、帰りますね」

「あっ、朝ごはん、食べていく?」

「そんなことしてもらったら、変に情が湧くじゃないですか。それともそれを期待してます?」

笹倉さんは少し呆気にとられた顔をしていたけれど、ボクが立ち上がって玄関に向かうと我に返ったようにボクの先回りをして靴を揃えてくれた。

「月曜日に会った時は元通りです」

「えぇ」

「ボクは誰にも言いませんし、笹倉さんともこのことはもう話題にしません」

「・・・」

「じゃぁ・・・」

「あの・・・」

「はい?」

「私には口止めしておかなくていいの?」

「誰かに話してしまいそうなんですか?」

「・・・いいえ」

「じゃぁ、口止めも必要ないです」

ボクは玄関の扉を開くと振り向いて、

「ごちそうさまでした」

そう言って頭を下げた。

「やだ、田中くんったら」

笹倉さんが少し顔を赤らめて俯いた瞬間、ボクはそっと玄関の扉を閉めた。

月曜日の朝に会ったとき、ボクたちは本当に元通りだった。

「おはようございます」

先輩社員に対していつもの通り、普段通りの挨拶をしただけでそれっきりだった。

ボクには大学時代にとても好きな娘がいた。

大学で知り合って3年間付き合って、卒業したらボクはカノジョと結婚するのだと信じて疑わなかった。

ボクの初体験はカノジョとだったし、カノジョにとってもボクが始めての男だった。

ボクにはもったいないような綺麗な娘で、一緒に居るのが楽しくて、自慢でもあった。

ボクたちは毎日デートしているようなものだった。

一緒に講義を受けて、好きな本の話をして、一緒に映画を見に行って、お茶を飲んで、お互いの家でゲームをすることもあれば、スキーやダイビングの旅行にも出かけて行った。

ボクはカノジョのためになら一生を捧げられると思っていたし、自分の命よりも大切な人だと思っていた。

けれども卒業間際になってカノジョはボクを裏切った。

田舎の親父が病気で倒れ、ボクが急に仲間内のスキー旅行に行けなくなった時、卒業に盛り上がった勢いで好きでもない同級生に身体を許してしまった、と後になってカノジョはボクに泣きながら告白してきた。

どうしてそんなことをボクに告げるのだろう。

今考えるとそれがカノジョの精一杯の誠意だったのだとわかるのだけれど、当時のボクは心の狭いちっちゃいヤツで、真意が理解できずに苦しんだ。

苦しんだ挙句、ボクはカノジョを許せないという口実の下、カノジョから逃げた。

本当はまだ大好きだったけれど、”穢れたカノジョをもう愛せない”などと自分で自分に嘘を吐いて別れを告げた。

カノジョは泣いて謝って、”別れたくない”とだだを捏ねてくれたけど、ボクの中ではわだかまりを消化できずに酷い言葉でカノジョを非難してしまった。

あまりの言葉に唖然とするカノジョにボクは背を向けて、その場を立ち去った。

それがカノジョと会った最後だった。

それからは女の人とは真剣に向き合うことができなくなった。

自分が傷つくのが怖くて心を開けなくなると、相手も心を開いてくれない。

いつもいつも疑心暗鬼になり、もう何もかもどうでもよくなってカノジョなんかいらないとさえ思い始めた。

カノジョが欲しいと思わなくなった途端、どうでもいい女の子ばかりが寄りついてくるようになった。

軽いノリで直ぐに股を開く女の子たちは性欲の捌け口としてはもってこいだったが、彼女たちと身体を重ねても心が満たされることはなかった。

女の子に不自由することはなく、身体の関係を結んでも、結局ボクが心を許すことがなかったのだと思う。

相手が処女でないと分かった途端、自分のことを棚に上げて、ボクの中の気持ちは一気に冷めてしまった。

ボクが初めての男でも、どんなに可愛らしくて清楚でお淑やかな女性でも、ボクの心を揺さぶる女性は現れなかった。

笹倉さんとのことも同じだった。

特に好意を抱いていたわけでも何でもなく、ただ急にムラムラして性欲を満たすためだけにご馳走になった。

想像をはるかに超えて美味しくいただいたが、それによってボクの心が揺れたり、惹かれることはなかった。

けれどもあんな体験は初めてで、それだけが強く印象に残っていた。

「田中くん」

「はい」

「伝票、ここ間違ってるけど」

声のトーンはいつもの通りだったけれど、笹倉さんは伝票の間違っている箇所を指で押さえながらボクの机に伝票を置くと自分の席に戻っていった。

「えっ?」

よく見ると間違いは何週間か前に笹倉さんに突き返された伝票と同じところの間違いだった。

“やってしまった”と思ったが、笹倉さんが間違えている箇所を教えてくれたことにちょっと驚いていた。

ボクは伝票を訂正すると笹倉さんのところへ持って行った。

何か言われるかなと思って、敢えて笹倉さんが一人の時に持って行ったが、笹倉さんはボクに何も言わずに伝票を受け取った。

少し物足りなさを感じたけれど、あまり気にも留めず、瞬く間にそれから数日が過ぎていった。

夕方に外勤からオフィスに戻ってくると、部長が物凄い剣幕で誰かに怒鳴り散らしていた。

あまりの声の大きさに部屋の中に入っていくのが一瞬躊躇われるほどだった。

部長は瞬間湯沸かし器みたいな人なので、ミスをするとこっぴどく叱られることもあるが、その日の怒りモードは尋常ではなかった。

こっそりと部長の声がする方を盗み見てみると、部長席の前に立たされて項垂れていたのは笹倉さんだった。

“笹倉さんが叱られているのなんて見たことないな”

そう思いながらも席について報告のまとめを始めていると、どうやらボクの担当先のことで叱られているらしい。

部長の声が大きいので嫌でも話の内容が耳に入ってくる。

しかし話の内容が呑み込めてくると、ボクはだんだん血の気が引いていった。

ボクはそっと自分の引き出しを開けて、一週間ほど前に回した受注報告書をそっと盗み見た。

得意先に届けるべき分量の十分の一の数字しか記載されていない。

ゼロが一つ足りなかった。

明らかにボクの段階で一桁間違えている。

ボクが間違えた数字で受注報告書を回し、それを元に笹倉さんが工場に発注したのだが、どうやら発注量のミスをしたのが笹倉さんということになっているらしい。

笹倉さんが散々叱られた後のようだったので今さら名乗り出るのは気が重かったが、笹倉さんを悪者のにしておくわけにはいかないので正直に名乗り出た。

「あのぅ、部長・・・、受注報告書の数量ミスったの・・・、ボクなんですけど・・・」

部長は一瞬面食らったような表情をして、次に顔を真っ赤にして怒鳴った。

「バカモノ!」

部長の怒鳴り声が部屋中に鳴り響いた。

部長はボクを散々能無し呼ばわりした後で、

「笹倉も、自分のミスでなければどうして直ぐに言わないんだ!」

と理不尽な怒りを笹倉さんにぶつけた。

怒りの矛先を誰に向けたらよいのかわからなくなって、部長はそのまま怒鳴り散らしていた。

「おい、田中、これから謝りに行くぞ」

課長が助け舟を出してくれて、ボクは部長に頭を下げると課長と一緒にその場を離れた。

課長のひと言で部長もやっと振り上げた拳を下ろすきっかけを見つけられたようだった。

オフィスを出る時、振り返ると部長が笹倉さんに席に戻るように言っているのが部長の手の動きでわかった。

ボクは笹倉さんの背中にも頭を下げると取引先へと急いだ。

平身低頭、先方の担当者にお詫びを入れてオフィスに戻ってきた時、笹倉さんはまだ自分のデスクで残業をしていた。

ボクは笹倉さんの席に真っ先に向かうと頭を下げて詫びた。

「私も気づいてあげられなかったんだから、そんなに謝らなくていいよ」

笹倉さんの目にボクを責めている気配は微塵もなかった。

「笹倉さんは営業から回ってくる数字しか見てないんですから気付きようがないですよ」

「でも、今の時期であそこの取引先なら、一桁違うと気づくべきだったわ」

ボクは笹倉さんの仕事の熟練度とプロ意識に舌を巻いた。

そしてそのままもう一度頭を下げると、ボクは自分の席に戻って残務を片付け始めた。

気がつくと、オフィスには笹倉さんのほか数名しか残っていなかった。

ボクは再び笹倉さんのところへいって、

「どこかでご飯食べて帰りませんか?お詫びに奢ります」

と誘ってみた。

笹倉さんが直ぐに返事をしなかったので、断られると思っていたら、

「割り勘なら行く」

と言って顔を上げた。

こっちが吃驚するような優しい目をしていて、思わずドキッとして目を逸らしてしまった。

「あと五分ぐらいで出られますか?」

尋ねると笹倉さんは、ボクの目の前でパソコンの電源を落として、

「お手洗いに寄っていくから五分後にビルを出たところで待っていて」

と言ったので、ボクは慌てて席に戻り、散らかった机の上のものを引き出しに突っ込んで鍵を掛け、カバンを掴むとエレベーターへと急いだ。

女性の喜びそうなお洒落な店を選ぼうと思っていたが、社交辞令として食べたいものを聞いてみると韓国料理と言われてしまった。

ボクの中に韓国料理屋のレパートリーは入っていなくて、結局笹倉さんが知っているお店に行くことになった。

「何か飲みます?」

「私はウーロン茶」

飲めないわけではないことを知っていたが、何も聞き返さずにボクはウーロン茶とジンジャーエールを注文した。

「田中くん、変わってるよね」

笹倉さんは出てきたチャプチェを口に運びながら言った。

「そうですか?」

「多分、関心が無いからなんだろうけど、余計なことは訊かないし・・・」

「どうして飲まないのか訊いた方がいいですか?」

「ううん」

笹倉さんは軽く首を横に振った。

「それよりも、どうして自分のミスだって部長に言ったの?」

「どうしてって言われても・・・」

「この間のこと、関係している?」

「この間って、エッチしちゃったことですか?」

ストレートすぎるかと一瞬躊躇ったけど、そう尋ねると笹倉さんは少し顔を赤らめて頷きながらも目を伏せた。

「関係ないですよ。でも、それって変わってるんですか?」

「昔も何度か同じようなミスがあって私が怒られたことがあるんだけど、あんな風に部長に言ってくれたの田中くんだけだよ」

「えっ?他の人は笹倉さんにミスを押し付けたんですか?」

「ううん、そんな悪い人たちじゃないから。でも、ほとんどの人は後からこっそり私のところへやってきて謝るの。お菓子を持って来てくれたりした人もいたわ」

「ふぅん、そうなんですか・・・」

「罰点がついちゃうのとか気にならないの?」

「罰点ですか・・・、考えたこともなかったです」

「だから変わってるって言ったの」

「・・・まぁ、要領が悪いだけみたいですね」

満腹になるまで食べて、ボクがお会計を済ませようとすると、

「もういただいてますから」

とお店の人に言われてしまった。

店員さんの視線の先にはウーロン茶を飲み干している笹倉さんの姿があった。

アルコールは口にせずに食事だけを終えて店を出た。

タクシーを拾おうと手を上げた時、笹倉さんがボクの腕を自分の腕で抱えるようにしてくっついてきた。

本当はドキッとしたけれど平気なふりをした。

ボクは何も言わずにタクシーを止めると一緒に乗り込んで、そのままホテル街まで車を走らせてもらった。

ラブホに入ると笹倉さんは黙ってシャワーを浴びに行って、バスタオルを細い身体に巻いて戻ってきた。

ボクも入れ替わりでバスルームに入り、部屋に戻ってくると電気が消してあって、笹倉さんはベッドに潜り込んでいた。

シーツを少し持ち上げて、笹倉さんの横に身体を滑り込ませるとボクは笹倉さんの首の下に腕を差し込んで、あのいい匂いのする身体を引き寄せるとキスをした。

お酒を飲んでいない素面の笹倉さんのキスは優しいけど、ねっとりとしていてエロかった。

笹倉さんの身体を覆っていたシーツを下げておっぱいを揉み、もう一度キスをしたところでベッドサイドの灯りを点けた。

すると笹倉さんは慌ててベッドの上で背を向けて身体を丸めると、

「見ないで!」

と言った。

ボクは宥めるようにゆっくりと笹倉さんを仰向けにさせ、胸を隠してる腕を剥がすようして綺麗なおっぱいにそっとキスをした。

胸に戻そうとする両腕を頭の高さでベッドに押し付けるように押さえると、身体を少し離して笹倉さんの小さいけれど綺麗なおっぱいを鑑賞させてもらった。

若い娘と比べると乳首が少し茶色く黒ずんで見える。

それが恥ずかしいのか、笹倉さんは顔を横に向けて硬く目を閉じていた。

「笹倉さん、きれいですよ」

そう言ってピンと勃ったままの乳首を口に含むと、

「あぁん・・・」

と笹倉さんは喘いだ。

ボクは空いた手を笹倉さんの身体に這わせ、茂みの辺りで少し彷徨ったあと、蜜で潤った亀裂を指で撫であげた。

笹倉さんは普段の清楚な装いとは違った夜の顔を見せた。

感度抜群だった。

「あ、あ、あ、ダメ!」

笹倉さんはボクの手首を掴んで動きを止めようとしたが、ボクはそのまま指の動きを早めて笹倉さんを絶頂に導いた。

笹倉さんが息を整えるように目を閉じてグッタリしているところで脚を大きく開かせると、ボクは茂みを掻き分けてまだヒクついている襞に舌を這わせた。

「あーっ・・・、田中くん、すぐはダメだって・・・、それ以上は、あっ・・・」

それでも構わずに敏感な突起を舌で舐めたりつついたりしながら蜜壺に指を差し込んで出し入れし、やがて掻き回すようにざらついたところを刺激し続けると、

「あー、そこはダメぇ・・・、もう、イッちゃう・・・」

「あ、あ、あ、そこっ、あ、イクっ・・・」

「あぅ、あっ、イッちゃう、イッちゃう、あー、イク、イク、イクっ!」

と我を忘れて喘ぎ声を発し、ガクガクと身体を震わせながら胸を突き出すように身体を反らせたかと思うと昇天し、それっきり動かなくなった。

欲望と快楽をそのまま曝け出しているようで、滅茶苦茶エロかった。

でも、こんなに素直に自分を見せてくれる女の子には出会ったことがなかったので、ちょっと驚くとともに感動を覚えていた。

ボクは自分では射精していないのに、笹倉さんが感じてくれるだけで物凄い充実感を味わった。

若い女の子では一度も感じたことのない征服感というか、満足感でそんなことは初めてだった。

ボクは自分が果てる以外のセックスで、こんなに充実した優しい気持ちになれるのかと自分でも正直なところ驚いていた。

ボクがそれまでずっと忘れていた女の子への愛しい気持ちが少しずつ蘇ってくるのを感じて、ベッドに横たわる笹倉さんの身体をそっと抱きしめた。

笹倉さんは薄っすらと目を開けてボクの顔を見ると、

「田中くん・・・、結構遊んでるんだね・・・」

と囁くような声で言った。

痛いところを突かれたが、平静を装って、

「ガッカリしました?」

と強がって答えて見せた。

「そんなことでガッカリするほど、私、若くないよ」

そう言われた時、”この人にはまいった”と思った。

笹倉さんには他の人では感じたことのない大人の女性を感じた。

「田中くんも気持ち良くさせてあげるね」

そう言うと、笹倉さんはゆっくりとボクの胸を押して仰向けにさせ、キスをしながら一旦萎んだペニスを手のひらでそっと包んだ。

ゆっくりと手を動かすとボクのモノはあっという間に復活し、笹倉さんの薄い唇が首筋を通ってボクの胸に、そして笹倉さんはしばらくボクの胸に舌を這わせたりキスをしていたが、やがて逆さまになり、ボクを跨いで四つん這いになると屹立したモノを静かに嘗め回した。

昼間の笹倉さんからは想像できない、夜の笹倉さんがそこにいた。

笹倉さんのフェラは、若い女性とは違ってネットリとしていて濃厚で、ボクはあっという間に臨界点に達してしまった。

「あっ、そんなに吸ったら・・・」

不覚にもボクはそのまま直ぐに脈打ってイカされてしまい、笹倉さんの口を汚してしまった。

ゴクリと喉が動いてボクが放出したものが笹倉さんに飲み込まれた。

笹倉さんはそのままもう一度萎えかけたボクのモノを口に含むと、口の中で舌を這わせて粘り気をすっかり取ってくれた。

「ごちそうさま」

ボクのモノを口から出した笹倉さんはボクのジュニアにチュッと唇を寄せて一言そう言った。

ボクが知っているそれまでの若い女性の中には、自分が終わるとグーグー寝てしまうような娘もいたのに、きちんとお返しをしてくれる笹倉さんに大人の女性の優しさのようなものを感じた。

今度は笹倉さんが子供を抱きかかえるようにボクの上半身を胸に抱えた。

目を開けると薄いけれどもしっかりと膨らみを持った乳房がすぐそばにあった。

それを見た途端に、ボクは笹倉さんに甘えたくなってしまって赤ん坊のようにおっぱいに吸い付いた。

「田中くん、おっぱいが好きなのね」

子ども扱いされたのが少し癪に障ったが、今までに感じたことのないような安心感に包まれて、ボクはいつまでも笹倉さんのおっぱいを吸い続けた。

その時、ボクは不意に思い出した。

それは遠い昔、母親にあやされていた時の感触に似ていた。

“ボクってマザコンだっけ?”

思わず自問してみたが、その答えが出る前にボクの唇がおっぱいから引き離されて笹倉さんのエロい唇が近づいてきた。

舌を絡め取られた時、もう何もかもがどうでも良くなって、気がつくとボクのペニスは笹倉さんの掌の中で痛いほどの硬さを取り戻していた。

「挿れる?」

笹倉さんに目の奥を覗きこまれるように聞かれて、ボクは子供が甘えるようにコクリと頷いた。

笹倉さんはどこで調達したのか、枕の下からコンドームを取り出すとボクに被せてくれて、そのまま仰向けになると膝を立てて両腕をボクの方に差し出し、

「来て」

と優しい目をして言った。

笹倉さんに導かれて、ボクはそのままスルリと奥深くまで入っていった。

また、あの感触だった。

温かくて、脳がギュッと絞られるような快楽を感じた。

ゆっくりとゆっくりと笹倉さんの膣の中を往復していると笹倉さんは”うぅ”と小さく声を上げてボクに下から抱きついてきた。

「田中くん、気持ちいい・・・」

「田中くん、すごいよ」

「ああ、もう滅茶苦茶にして・・・」

矢継ぎ早にそう囁かれると、ボクは極限とも思えるほどに興奮した。

それでもボクは直ぐに入って行きたいのを我慢して、シックスナインになると笹倉さんの秘所に顔を埋めた。

笹倉さんも直ぐにボクの屹立した肉棒を頬張ってくれた。

「ねぇ、もう来て」

身体の向きを入れ替えて、甘えたように声を出す笹倉さんに一気に挿入すると若さに任せて笹倉さんを突きまくった。

「う、う、う、う、う、んーっ!!」

笹倉さんの額に大粒の汗が滲み、ボクの腕の中で笹倉さんの身体が震えた。

笹倉さんが昇天したのはわかっていたが、ボクはそのまま狂ったようにピストン運動を続けた。

「あ、田中くん・・・、続けてはダメだってば・・・」

「あー、もうおかしくなっちゃう、あー、壊れちゃう、壊ちゃ・・・」

「あっ、イッ、イク、イク、イクッ!」

ボクはそのまま震える笹倉さんの身体をひっくり返してうつ伏せにさせ、腰を引き上げて膝をつかせると無防備にさらされた笹倉さんの肉襞を今度は後ろから抉るように突いた。

「田中くん、もう許して・・・、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛がーっ!!!」

笹倉さんは枕に顔を埋めたまま三度目の絶頂を迎え、そのまま意識を失っていた。

すごく不思議な体験だった。

笹倉さんが果てる瞬間、ボクの肉棒を根元から先っぽに向かってぎゅうぎゅう締め付けるような快感が押し寄せて、ボクも同時に笹倉さんの中で放出してしまった。

笹倉さんの亀裂の奥に何かがいるみたいな不思議な感覚だった。

途端にボクは激しい睡魔に襲われて、ボクたちはこの前と同じように抱き合ったまま朝まで眠ってしまった。

腕枕をしていた腕の痺れを感じて目を覚ますと、笹倉さんは少女のような顔をしてボクの隣で眠っていた。

朝の薄明かりの中でみる笹倉さんの身体はモデルさんのように美しかった。

たまらずキスをして抱きしめると、

「田中くぅん、もうダメ・・・」

寝言のように言う笹倉さんのことが可愛らしくて、愛しかった。

ボクはそのまま再び微睡んで、次に目を覚ました時には会社に向かう時刻を回っていた。

「笹倉さん、会社!」

ボクは飛び起きて脱ぎ捨てた服を拾い集めた。

「・・・ぅ、・・・だよ」

笹倉さんが目を閉じてベッドに横たわったまま何かを言った。

「笹倉さん、早くしないと遅刻ですよ、遅刻!」

笹倉さんは今度ははっきりとボクにも聞こえるように言った。

「田中くん・・・、今日、祭日だよ」

それを聞いた途端、ボクは力が抜けてズボンに片足を突っ込んだままの状態で笹倉さんが横たわるベッドに倒れこんだ。

気がつくと笹倉さんは肩を震わせて笑っていた。

「笹倉さぁん、早く言ってくださいよぉ」

「言ったわよ」

「言ってませんよ」

ボクは自分が本当に間抜けだと思って恥ずかしくなり、それを隠すかのように笹倉さんにじゃれついた。

笹倉さんは愛おしそうにボクの髪を指で梳きながら、



「田中くん、漫画みたい」

と言ってまた笑った。

ひとしきり笑った後、笹倉さんはシーツを身体に巻くようにしてバスルームに入っていくと直ぐにシャワーを流す音が聞こえ始めた。

入れ替わりにボクがバスルームに入ってシャワーを使わせてもらっている間に、笹倉さんはもう服に着替えていた。

笹倉さんはホテル代も出してくれようとしたけれど、今度はボクが出させてもらった。

ホテルを出たところで笹倉さんは、

「うちでご飯食べていきなよ」

と言ってくれて、そのまま一緒にタクシーに乗り込んだ。

髪がぐしゃぐしゃのままホテルを出てきたので、洗面所を使わせてもらっているうちに、笹倉さんは普段着のお洒落な白いブラウスとフレアスカートに着替えていた。

キッチンでお湯を沸かし、”これを使ってね”と渡されたタオルで髪を拭きながら出てきたボクに、

「パンしかないけど我慢してね」

と言った。

テレビの前で待っていると、

「田中くん、できたよ」

と声を掛けられた。

パンしかないと言っていたけれど、笹倉さんはトーストの他にハムエッグとサラダを用意してくれて、すごく香りのいい紅茶も淹れてくれていた。

一緒に朝食を摂っていると、笹倉さんのことがもっと知りたくなった。

「笹倉さん、あの日どうしてあんなに飲んでたんですか?」

「・・・」

途端に笹倉さんの顔が急に曇った。

“ああ、ボクらしくないなぁ。地雷踏んじゃた・・・”と思っていたら、

「どうしたの、急に・・・、私に興味湧いた?」

「いや、話題に困って、つい」

「ウソ、田中くん、話題に困っても踏み込んだこと聞いてきたことないもの」

笹倉さんはお見通しだった。

今度はボクが押し黙ると、

「あ、ごめん、気を悪くした?」

そう言うと独り言のように、

「ちょっとはしゃいじゃった」

と小声で言うと席を立ってキッチンに入っていくと、そのまま洗い物を始めた。

ボクもテーブルに残ったお皿とコーヒーカップを持って笹倉さんの横に立った。

笹倉さんが洗って、ボクが拭いていく。

「男ですか?」

「えっ?」

笹倉さんは視線を洗い物からボクの方に移した。

「いや、ですから、あんなに酔っ払っちゃったわけです」

笹倉さんはしばらく考えるように黙っていたが、ようやく口を開くと一言だけ、

「うん」

と言った。

たったひと言、予想通りの返事だったのに、ボクの胸の奥はざわついた。

でも、それ以上は立ち入る勇気がなくて何も聞けなかった。

最後のお皿を拭き終わると、ボクはリビングに戻ってカバンから少しはみ出たネクタイを雑に押し込むと、

「じゃあ、帰ります」

と言ってカバンを手にした。

それを見て、笹倉さんはいつの間にかハンガーに掛けられていたボクの上着を手に取ると、ボクの後ろに回って着させてくれた。

「あ、どうも・・・」

ボクがぺこりと頭を下げている間に笹倉さんは玄関に回っていて、しゃがんだかと思うと靴を揃えてくれていた。

意識してできる動きではないと感じて、そこに男の匂いを感じた。

ボクの中で不条理な嫌な気持ちが過ぎったが、直ぐにボクのジェラシーだと気がついて、もっと嫌な気持ちになった。

靴を履いて玄関を出る時、キスをしようかどうか迷ったけれど、結局できなかった。

玄関の扉を閉める時の笹倉さんの顔は何だか寂しそうだった。

家に帰ってからも笹倉さんとの情事が頭の中で何度もプレイバックされていた。

笹倉さんがボクに向けて発した言葉を繰り返し思い出していた。

その度にボクは笹倉さんのすべすべのおっぱいと平らなお腹を思い出し、股間が膨らんでしまって困った。

笹倉さんに電話したい衝動に駆られたけれど、よく考えたら電話番号も知らなかった。

翌日、会社で笹倉さんと顔を合わせたけれど、普段通りの挨拶をしただけでお互いに何も言わなかった。

お昼に誘おうかと思ったけれど結局誘えなくて、近所の立ち食い蕎麦屋で一人の昼食を終えて帰ってくると、笹倉さんは自分の席でパソコンの画面を見ながらサンドイッチをかじり、インスタントのスープをすすっていた。

何もできないままに一週間が過ぎ、ボクは午前の営業に出た帰りに小さな鯛焼きを一袋買って帰ると、

「お昼のデザートかおやつにでもどうぞ」

と言って笹倉さんに紙袋を渡した。

笹倉さんは少し驚いていたみたいだったけど、会社では見せない優しい眼を一瞬ではあったけれどもボクだけに見せてくれた。

午後は内勤でパソコンに向かっているとメールの受信通知の音がした。

笹倉さんからだった。

『鯛焼きありがとう。ご馳走さまでした』

それだけだった。

ボクは自分がガッカリしていることに気がついて、自分でも少し驚いた。

笹倉さんのメールを閉じようとした時、署名欄の電話番号に違和感を覚えた。

よく見るとそれは会社の番号ではなくて、携帯電話の番号だった。

ボクは思わず笹倉さんの方に顔を向けたが、笹倉さんはいつもと変わらずパソコンに向かって仕事をしていた。

メールにあった番号を自分の携帯に登録するとボクは仕事に戻ったが、気がつくと一人でニヤニヤしていた。

「田中、何だかご機嫌そうだな」

背後から不意に声を掛けられてボクは驚いて顔を上げた。

課長だった。

「あ、新規先の案件が取れるかもしれないと思ってまして」

「そうなのか、どこだ?」

でまかせだったけれど、ボクは咄嗟に3日ほど前に往訪した新規先の名前を告げた。

「本当か?それが取れたら凄いぞ!」

課長の顔が綻ぶのが見えた。

「がんばれよ!」

課長はそう言うと、ボクの方をポンと叩いて自分の席に戻っていった。

その日は気分がふわふわして午後は仕事にならなかった。

ボクは営業に出るふりをして、わざと笹倉さんのところにも聞こえるように、

「直帰しまーす」

と誰にともなく声を掛けてオフィスを出た。

就業時間までの一時間ほどを喫茶店で時間を潰し、笹倉さんに電話しようかどうか迷っているうちに喫茶店を出て家路へとついてしまった。

それでも家に着くまで待てなくて、家の近くの公園のベンチに腰を下ろすとボクは笹倉さんのくれた番号に電話を掛けてしまった。

「もしもし」

呼び出し音が二回ほど鳴って笹倉さんの声が聞こえた。

「あ、田中ですけど・・・」

気のせいか、笹倉さんがハッと息を呑んだ音がしたような気がした。

「気づいてくれたんだ」

「はい。笹倉さん、まだ会社ですか?」

「ううん、今日はもう帰っているところ」

携帯電話の向こうで電車の出発を知らせる駅の音が小さく聞こえた。

「あ、鯛焼き美味しかったよ。ありがとう」

「いいえ・・・」

「それと・・・、電話してくれてありがとう」

「いいえ・・・、あの、唐突なんですけど・・・、今週末って空いていませんか?」

「空いてるけど、ひょっとして何かのお誘いかしら?」

笹倉さんはわざと茶化すように言った。

けれどもボクはそれに上手く切り返すことができなくて、真面目に、

「そうです」

と答えてしまった。

笹倉さんは一瞬押し黙ったけれど、

「田中くん、デートのお誘いなら受けられないわ」

と返事が返ってきた。

最初に電話に出たトーンから推して、笹倉さんも同じ思いでいてくれているとばかり思い込んでいたので、ボクは自分でも驚くほどその言葉にガッカリしていた。

けれども次の言葉には、もっと驚いた。

「でも、エッチするだけならいいよ」

そう言われてボクは笹倉さんが何を考えているのかわからなくなってしまって、複雑な思いに駆られた。

それでも何とか週末の約束を取り付けて、土曜日のお昼前に笹倉さんのマンションで会うことになった。

「お昼は食べてこないでね」

そう言われてボクはその日、朝食も食べずに笹倉邸にお邪魔した。

それまでの二回とは違ってこの日はお呼ばれだったので、何かを持って行こうと思ったが、笹倉さんが何を好きなのか何も知らないことに気がついた。

それまでに何度も女の子の部屋を訪れたことはあったけれど、何を持って行こうかあんなに迷ったのは初めてだった。

お酒が飲めないわけではないことは知っていたが、一緒にご飯を食べたときは飲んでいなかったのを思い出した。

ワインとかを持って行って酔わせようなんて思っていると思われるのが嫌で、結局赤いバラの花束を買って持って行った。

女の子に花束を持っていくなんて恥ずかしくてできないと思っていたけれど、花束を持って電車に乗っている自分のことがそれほど嫌ではなかった。

「わぁ、綺麗ね」

少し大袈裟とも思えるくらい笹倉さんは花束を喜んでくれて、クローゼットからガラスの花瓶を取り出すとすぐにその場で活けてくれた。

よく考えてみたら、やっぱり女性の家なんだなと思った。

ボクのアパートからはどこを探したって花瓶なんて出てこない。

「もうできるからそこで待っていて」

笹倉さんはボクをダイニングテーブルに着かせると、エプロン姿でキッチンの中を忙しく動き回っていた。

大きな寸胴鍋から湯気が立ち込める中、笹倉さんはパスタの湯切りをしていた。

「ボクも手伝いますけど・・・」

そう言ってみたけれど、案の定笹倉さんはボクにウインクをすると口の動きが、

「座って待ってて」

と言っていた。

笹倉さんの作ったパスタは絶品だった。

油通しをしたナスや炒めたガーリックを少し酸味の強いトマトソースと唐辛子でまとめていて、少し癖のある香辛料が混じっていた。

「こんな美味しいの、食べたことないです!」

「ありがとう、お世辞でもうれしいわ」

「いや、マジで、パねぇっす」

ボクはわざと砕けた言い方で賛辞を送った。

「ふふ、田中くん、誉めるのが照れくさいのね」

笹倉さんは、そんな言葉の端からもボクの心のうちをお見通しだった。

「これはね、プッタネスカっていうんだよ」

「どういう意味ですか?」

「”娼婦風”っていう意味なんだって」

ボクは何と反応してよいのかわからなくて思わず、言葉に詰まってしまった。

「あ、でもニンニクがたっぷり入ってるから臭くなっちゃうわね」

沈黙を追い払うように笹倉さんが言った。

「二人とも臭ければわからないですよ」

「そうね、そうよね」

そう言って二人で笑った。

ランチの後、ボクたちは場所をベッドに移した。

笹倉さんがこっそり自分だけ歯を磨いているのを見つけて、

「笹倉さぁん、自分だけずるいですよ」

笹倉さんは”ばれちゃった”と言うように肩を竦めながら、

「歯ブラシ、これしかないんだけど、使う?」

そう言って自分の歯ブラシをボクに突き出した。

「ボクはそれで構わないんですけど、笹倉さん、ホントにいいんですか?」

「もちろん」

そう言うと、歯磨き粉をブラシにつけてくるりと柄の方をボクの方に向けて差し出した。

さっきまで笹倉さんの口の中に入っていた歯ブラシ。

そう思っただけでボクはなんだか興奮した。

お互いに下着だけの姿になって、ボクたちはベッドに潜り込んだ。

ブラジャーの上から笹倉さんの小さなおっぱいに手を当てながら、ソフトに、できるだけソフトにキスをした。

「私、臭くない?」

笹倉さんが心配そうに言うので、

「臭いかもしれませんが、ボクも同じなのでわかりません」

と言ったら、笹倉さんは声を殺して笑った。

それから笹倉さんは手をボクの胸からお腹の方に這わせていったのだけれど、ボクはそっとその手の甲に自分の手を被せて動きを制した。

笹倉さんが”どうしたの?”と言う目でボクを見ているので、

「ちょっと話をしてもいいですか?」

と切り出した。

笹倉さんは一瞬不思議そうにボクのことを見たが、目で話の続きを促した。

「どうしてデートはダメなんですか?」

笹倉さんはボクの問いにちょっと驚いた目を一瞬見せたけど、すぐに優しい目に戻って、

「一緒に出歩いているところを会社の人に見られたらどうするの?」

と言った。

声のトーンの中に”困るのは田中くんだよ”という響きが感じ取れたのであえて尋ねた。

「それって、マズいですか?」

「マズいに決まっているじゃない」

「ボクと一緒じゃ、嫌ですか」

「バカね、何を言っているの。田中くんが私なんかと一緒のところを見られて、噂にでもなったらどうするの?」

「どうもしませんけど・・・」

「出世に響くじゃないの」

「どうしてですか?」

「どうしてって・・・、私に言わせるの?」

「すみません、でもボクにはわからないんで・・・」

「だって、”何を好き好んで田中はお局さまを・・・”なんて好奇の目で見られるわ」

「ボクは構いませんけど」

「・・・」

ボクは笹倉さんにそっと口づけをした。

けれども笹倉さんはボクの胸を軽く押してボクの目を見つめながら言った。

「私は構うわ」

「”笹倉さんは若いツバメを飼ってる”とでも言われるんですか?」

笹倉さんが気遣ってくれて嬉しかったのに、子供なボクはワザと意地の悪い聞き方をした。

「そうよ、人の噂って怖いのよ」

「笹倉さん、ボクはずっと笹倉さんのことばっかり考えてるんです」

「それは・・・」

笹倉さんはうれしそうな顔をちょっとだけ見せたけど、直ぐに元の表情に戻ると僕から目を逸らして、

「そんなの風邪みたいなものよ。すぐに熱は冷めるわ」

と言ったので、

「そうかもしれませんけど、そうじゃないかもしれません」

と言い返してしまった。

笹倉さんは天井を見つめたまましばらく黙っていた。

「ねえ、田中くん」

「はい」

「今日はしないの?」

「・・・笹倉さん・・・」

「なに?」

「笹倉さんはボクの身体だけが目当てなんですか?」

口に出してから、”これは女の人のセリフだ”と思って恥ずかしくなった。

けれども笹倉さんからはそんなことも忘れるような返事が返ってきた。

「そうよ、私は田中くんとセックスがしたいだけなの。そんな女なのよ」

ボクはそれが笹倉さんの本心だとは思えなかった。

否、本心だと信じたくなかったのだと思う。

ボクは笹倉さんから下着をむしり取るようにして素っ裸にすると、前戯も何もなしに挿入を果たした。

笹倉さんはボクに組み敷かれて肉棒に貫かれた状態で目を閉じていたが、よく見ると涙が伝って枕を濡らしていた。

ボクは吃驚して笹倉さんから抜いて、そのまま覆い被さるように細い身体を抱きしめた。

「最初は何とも思ってなかったんです」

「・・・」

「でも笹倉さんと一緒の時間を過ごしてみて、”この人とならやり直せるかもしれない”って・・・」

「・・・」

「気持ちの通わないセックスはもう嫌なんです・・・」

「・・・」

「笹倉さんとなら・・・」

すると笹倉さんは、わっと泣き出した。

子供が駄々を捏ねるように嗚咽を上げながら、

「十年、いいえ、五年前に出会いたかった・・・ひっく・・・私ね、ずっとある人のお妾さんだったの・・・」

衝撃の告白だった。

ボクはショックで何も言えなかった。

「だからね、田中くんとはそういう関係になんかなれないの・・・」

ボクはやっとの思いで口を開いて、

「ベロベロになっていたあの日は、その人と関係あるんですか?」

と尋ねると、笹倉さんはしゃくりあげながら、

「ええ、あの日、あの人には”好きな人が出来たから別れてくれ”って言われて、お金を渡されたの」

「・・・」

「悔しくって、情けなくって・・・、”もらったお金、全部使ってやる”って思ってホストクラブで飲んでたの・・・」

「・・・」

「最低でしょ?引いたわよね?」

笹倉さんはボクに心の扉を少しだけ開いてくれた。

ここでボクも自分を晒さないと笹倉さんは離れていってしまうと思った。

「ボクも昔、好きだった娘に裏切られたんです。彼女の過ちは一度きりで、正直に言ってくれたので許すべきだったのだと今では思っています。でもそれ以来、誰も好きになれなくて・・・」

笹倉さんも少し驚いたような顔をしてボクのことを見ていたが、黙ってボクの話を聞いてくれていた。

やがて、笹倉さんが口を開いた。

「ねぇ、田中くん」

「はい?」

「大学のカノジョと最後に会ったのっていつ?」

「卒業式の日だったので、もうずいぶん前ですね」

「カノジョはどうしてるの?」

「さぁ、卒業してから一度も会ってないので・・・」

「どうしてるのか、確かめてみない?」

「笹倉さん、いつからそんな悪趣味になったんですか?」

「だって・・・」

「だって?」

「カノジョ、田中くんを待ってるかもしれないよ」

「どうしてそんなことが分かるんです?」

「私がそのカノジョだったら、田中くんを待ってると思う」

「・・・」

「田中くん、その娘のこと死ぬほど好きだったんでしょう?」

「その話はもういいですよ」

「カノジョも、田中くんと結婚してもいいと思ってたくらい好きだったんだよね?」

「・・・」

「おかしいと思わない?」

「何がですか?」

「浮かれちゃって好きでもない人とエッチするかな」

「・・・笹倉さん、二人でやり直せないか、試すだけ試してみませんか?」

「でも・・・」

「カノジョとのことはもう過去のことなんです」

「・・・」

「これからは笹倉さんと未来を歩きたいんです」

それを聞いた笹倉さんは、再び肩を震わせて泣き出した。

ボクは泣き止まない笹倉さんを抱きしめると、涙でぐしゃぐしゃになった頬に手を当てて唇を重ねた。

そうすると、笹倉さんはボクの首に腕を回して抱きついてきた。

笹倉さんは臭いどころか、とてもいい匂いがした。

初めて身体を重ねたあの日と同じだった。

会社で笹倉さんとすれ違う時も、いつもこの香りがしているのを思い出した。

ボクたちはその日の午後、ずっとベッドで抱き合ったままいろいろなことを話した。

給湯室でボクが若い女の子たちを窘めたのも実は笹倉さんは最初から聞いていて、”あの時は田中くんのことをちょっと見直しちゃった”と言ってくれた。

捨てられた彼とは八年ぐらい続いていて、笹倉さんはずっと日陰の身だったらしい。

お妾さんと言ってもお手当てを貰うわけでもなく、結局は都合のいい女にされていたのだと自嘲気味に言った。

ボクはその一連の話を聞いて、笹倉さんがまだ前の男の人のことを引きずっているのだと気付いてしまった。

ボクの心の中がざわざわして、黒い炎が揺らめいていた。

けれどもボクはそのことにわざと気がつかないふりをして、これからの時間を笹倉さんと過ごしてみようと心に決めた。

笹倉千夏、三十九歳。

ボクより十五歳年上のカノジョ。

会社ではお局さまなどと陰で呼ばれているが、そんな年には到底見えない。

読者モデルぐらいにはなれそうなくらい腰が細くて、お尻だってキュッと持ち上がっている。

世間的には美魔女の部類に入るのかもしれない。

ただ、彼女の持つ落ち着きと優しさだけが、彼女の年齢と合致していた。

一度心を、正確には身体を許してしまった関係になると、女房気取りで馴れ馴れしくしてくる女性は多かったが、笹倉さんのボクとの距離感はそれからも変わらなかった。

会社ではあくまでもボクの先輩で、不必要に声を掛けてくることはなく、かと言って不自然に余所余所しいわけでもなかった。

あの日、話疲れて抱き合って眠った後、夕方に目を覚ますと笹倉さんはキッチンで夕飯の支度をしていた。

部屋の中に出汁の香りが漂っていて、リズミカルな包丁の音が聞こえてきていた。

「田中くん、目が覚めた?」

ボクと目があった笹倉さんは優しい目で微笑むと、ワインボトルとオープナーを持って来て”開けておいて”と言うとキッチンに戻っていった。

ボクは笹倉さんの手料理に舌鼓を打ちながら、ワインを楽しんだ。

サッシ・カヤというワインらしくて渋みの効いた大人の味のワインだった。

「これすごく美味しいですね!」

和食系の料理なのに、赤ワインが妙に合っていたのが不思議だった。

けれどもボクはワインを一杯だけで遠慮をして、

「笹倉さん、素敵なワインを開けてもらって申し訳ないんですけれど、このおかず、白いご飯で食べさせてもらったらダメですか?」

と言うと、笹倉さんは、

「嬉しい!」

と満面の笑みを湛えて、ご飯をよそってくれた。

「たくさん食べてね」

「くぅーっ!」

おかずを頬張りながら白いご飯を掻き込むと至福の時がやってきた。

ボクの胃袋は完全に笹倉さんに掴まれていた。

そんなボクを、笹倉さんはボクだけに向けてくれる優しい眼差しで満足そうにいつまでもボクを見つめていた。

食事の後は一緒に洗い物して、最後の一枚を拭き終わったところで、笹倉さんが思い切ったように口を開いた。

「田中くん、今晩、泊まっていく?」

ボクが速攻で頷くと笹倉さんはまた笑った。

その晩、ボクは笹倉さんと本当に心と身体の両方が結ばれたと思った。

笹倉さんが身に着けているものを一枚一枚丁寧に脱がせて優しい口づけを何度も交わした。

ボクは笹倉さんの薄い胸に顔を埋め、コリコリに硬くなった乳首を何度も舌で転がした後、脚を大きく開かせて濡れそぼった秘所に舌を這わせた。

「田中くん、もうイッちゃうよぉ」

笹倉さんが甘えた声を出してボクのいきり立った肉棒に手を伸ばした。

けれどもボクはその手を優しく払いのけると、一番敏感な突起の皮を丁寧に舌で押し上げると舌先で円を描くように刺激した。

「あぅ、もうダメ!あー、あー、もうダメ、イクッ!」

笹倉さんは腰を引いてボクの舌から逃れようとしたけれど、ボクはガッチリとそれを抑え込んで、今度は突起を吸いながら亀裂に指を這わせて柔らかい襞の中へと押し込んだ。

「ひぃん!」

笹倉さんの腰がくねり、直ぐに絶頂の波が押し寄せたのが見ていてわかった。

「はぅ、あ、イクっ、イクっ、イクっ」

笹倉さんの腰がガクガクと震え始めたところでボクは屹立したペニスを突き立てるように挿入した。

「んーっ!はっ、はっ、あ、動いたらダメ、もうイッちゃう・・・、いい?いい?イッてもいい?」

大きなストロークを短く早いストロークに切り替えると、笹倉さんはベッドのシーツを握りしめながら身体を反らせて深い絶頂を迎えた。

子猫のように背中を丸めて震えている笹倉さんの身体を抱きしめていると、笹倉さんはボクの耳元で囁いた。

「大好き・・・」

ボクは一層強く笹倉さんの細い肩を抱いて唇を重ねた。

笹倉さんはぬるりと舌をボクの口に差し込んで舌を絡めたあと、ボクの上に覆い被さってくると耳たぶを唇で挟み、首筋を舌先で撫でた。

ゆっくりとゆっくりと唇を喉から胸、お腹を通って下腹部へと移していくとボクにM字開脚をさせた。

菊門を笹倉さんの舌がつんつんと刺激し、ふぐりから裏筋を舐め上げたかと思うとボクのはパクリと笹倉さんの喉の奥まで呑み込まれた。

笹倉さんの性技のことを考えるとボクは激しい嫉妬心に駆られる。

色々な経験を通じて、今の笹倉さんがボクの前に居るのだと自分に言い聞かせてもボクの中の黒い炎は消えない。

ボクは上半身を起こして笹倉さんにボクの下腹部に跨るように促した。

笹倉さんはボクのモノを掴んだままボクに跨ると、先っぽを入口に当ててゆっくりと腰を落とした。

「うっ!」

笹倉さんはボクの首に抱き付き、ボクは笹倉さんの細い腰に腕を回して、身体を揺するように刺激した。

それから笹倉さんの身体を後ろへと押し倒していって覆いかぶさると、円を描くようにしてペニスで笹倉さんの中を掻き回した。

「あ、それダメ!」

笹倉さんは白い喉を見せながら口を開けて、

「は、は、は、は」

とボクが動くたびに息を漏らし、やがて昇天した。

それでもボクはまだ終われなくて、笹倉さんをうつ伏せにさせて四つん這いにさせると脚を開かせた。

過去の男を追い出すようにボクは笹倉さんを後ろから一気に貫くと、ジェラシーをぶつけるかのように突き続けた。

「あーっ!」

身体を仰け反らせて笹倉さんが絶頂を迎えた瞬間、ボクも笹倉さんの中で精子を放った。

笹倉さんから吹き出した大量の愛液がシーツを濡らした。

ボクの肉棒から解放された笹倉さんはベッドに身を横たえると、息を整えるように胸が上下に動いていた。

突然、笹倉さんが息を殺して笑い始めた。

「どうしたんですか?」

ボクが顔を覗き込むと、笹倉さんは薄らと目を開いて、

「田中くん、すごぉい・・・。腰が抜けたみたいで動けない」

と言った。

ボクは笹倉さんの上半身を抱え、子供をあやすようにゆっくりと揺らした。

笹倉さんは上目遣いでボクの顔を見ると言った。

「こんなに好きにさせちゃって、悪い人・・・。私の気持ち・・・、もう止められないよ」

ボクは笹倉さんのおでこにキスをすると細い身体を抱きしめた。

ボクたちは週末が来るたびに二人で会うようになった。

咄嗟に課長に口走ってしまった新しい取引先の話も、笹倉さんと話をしていたら取引の決め手になるアイディアとなるヒントみたいなものをくれて、それが功を奏して本当に取引が取れてしまった。

ボクは課長だけではなくて部長にも褒めてもらった。

最初は外で会うことに難色を示していた笹倉さんだったけど、”いつも家の中ばかりでは不健康ですよ”と言って、絶対に会社の人に会わないように人の集まらないマイナーな駅の商店街などを手を繋いで歩いた。

それでもマンションに籠っているよりも新しい刺激に晒されて、ボクたちはふざけ合ったりしてよく笑った。

ガラスのキティのキーホルダーはいつの間にかなくなって、ボクと一緒に浅草の仲見世で買った招き猫のものに変わっていた。

ディズニーランドにも連れて行った。

最初は”もうそんな歳じゃないわ”と言っていたが、行ってみると笹倉さんは凄くテンションが上がって、ずっとはしゃいでいた。

観覧車やアトラクションの中で二人きりの時、笹倉さんは人目のつかないところでボクに思い切り甘えてきてくれた。

会社では相変わらず凛としているのに、二人っきりで会う笹倉さんは別人のようだった。

笹倉さんは上手にボクに甘えて来てくれるので、ボクは一層張り切ってみせた。

笹倉さんはお料理も美味いし、気が利くし、大人だった。

それに何と言ってもエッチが最高だ。

ボクは笹倉さんとずっと一緒に笑っていたいと思うようになった。

「ねぇ、笹倉さん、今度ボクの田舎に行ってみませんか?」

「どういうこと?」

「つまりですねぇ、ボクの両親と会ってもらえませんか?」

笹倉さんは一瞬押し黙って、ボクの顔を見ていたけど、やがて口を開いた。

「田中くん・・・、私、結婚する気はないよ」

「えっ、どうして?」

思わずタメ口で言ってしまった。

「田中くん、私のこといくつだと思っているの?」

「三十九です」

「バカ、何をまともに人の歳を答えているのよ」

「じゃあ、何を訊いてるんです?」

「だから、それだけ年が離れてるって言ってるの!」

「でも、そんなこと、最初から解っていたことですよね?」

「・・・けど、結婚なんて・・・」

「ボクとのこと、遊びだったんですか?」

言った後で”どっちが女のなのかわからないな”と思ってしまった。

「何を・・・、人のこと、悪女みたいに・・・、ねぇ、田中くん、少し冷静になろう?」

「ボクは十分冷静ですけれど」

「わかった。じゃあ、その冷静な田中くんに聞くけど、私は田中くんと田中くんのお母さんのどっちと年が近い?」

「母です」

「でしょ?そんなお母さんに私はどんな顔をして会いに行けばいいのよ?」

「笹倉さん、一つだけ聞かせてもらっていいですか?」

「何よ」

「ボクのことキライですか?」

「ずるいよ・・・、そんな言い方する田中くん、キライ」

笹倉さんは拗ねた子供のように小さな声で答えた。

「じゃあ、ボクの田舎に帰るのはやめましょう」

「えっ?」

今度は笹倉さんがちょっと驚いて顔を上げた。

安堵の目の中に明らかに落胆の色が垣間見えた。

「その代わり、笹倉さんのご両親に会わせてもらっていいですか?」

笹倉さんは少し安心したように目を伏せると声を押し殺して泣いていた。

大粒の涙が笹倉さんの頬を伝って細い顎の先から流れ落ちた。

ボクは笹倉さんの脚を割って入るとゆっくりと挿入した。

お互いの目を見つめ合いながら時々チュッとキスをしたり、お互いの身体にソフトに手を這わせて愛を確かめ合った。

そのうちに笹倉さんの息遣いがだんだん荒くなっていって、両手でボクの脇腹を摩るようにして掠れたような小声で笹倉さんは言った。

「ねぇ、もう、ちょうだい・・・」

「もう入ってますよ」

「・・・意地悪・・・」

ボクがゆっくりと腰を動かし始めると、

「えっ?なに?あぅ、はっ、はっ、はっ、待って・・・」

笹倉さんはそれだけで身体が震えだし、ボクの動きを止めようとした。

「田中くん、何をしたの?」

けれどもゆっくりと汽車が動き出すようにボクは笹倉さんの中での往復を速めていった。

「田中くん、ダメ!イッちゃう・・・、あ、あ、あ、もうダメ!」

笹倉さんはボクに強くしがみ付いて来ると、身体を痙攣させるようにボクの腕の中で絶頂を迎えたあと、胸に汗を光らせながら全力疾走をした後のように肩で息をしていた。

ボクは笹倉さんの背後に回ると後ろから抱きしめた。

心臓の鼓動を感じたくて、そっと掌を笹倉さんの胸の上に被せた。

そして周りには誰もいないのに、耳の後ろから笹倉さんにだけ聞こえるように小声で言った。

「千夏さんをボクにください」

ぴくりと笹倉さんの肩が震えた。

「これ、練習ね」

そう言うと、笹倉さんはボクの腕を打つふりをして、

「バカ・・・」

と一言だけ言った。

その年の夏、ボクは千夏の両親に会った。

千夏の両親に会ったとき、挨拶もそこそこにボクは千夏の父親に誘われて散歩に出た。

風は冷たかったけれどとても澄んだ青い空で、気持ちが良かった。

「あの子は気持ちの優しい娘でね」

話し始めたお義父さんの言葉にボクは耳を傾けた。

「情の厚い娘だから、あの子の愛情を受け止めきれる男性はいないんじゃないかと思っていたよ」

「どういうことですか?」

「千夏の気持ち、重たいだろう?」

「そんなことないです」

でも、お義父さんの言いたいことは何となくわかる気がした。

「千夏がこんなに若い男性と付き合っているとは思ってもみなかった」

「ご期待に沿えなくてすみません・・・」

ボクが頭を下げると、

「いや、そういうことじゃないんだ」

「・・・」

「お若いのに娘が認めた婿殿だから、よほどしっかりしておいでなのだろう・・・」

「いや、そんな・・・」

「娘を頼みます」

「あ、はい・・・」

折角練習したのに”娘さんをください”というセリフは使わずじまいになってしまった。

千夏の実家から帰ってきた晩、家に帰りついた途端に千夏が無言で抱きついてきた。

ボクのベルトを外してズボンを下ろすと、千夏はボクの前に跪いた。

千夏の熱い息がボクのモノにかかって、ヘビが鎌首をもたげるように愛する人を求める欲望がボクの股間に現れていた。

千夏の舌が伸びてきてボクの先端に触れた。

その日の千夏はボクを一気に口に含まずに、上目遣いでボクのことを見ながらいつまでもボクのモノに舌を這わせていた。

堪らなくなったボクは起き上がって、千夏の身体に腕を回すとお姫さま抱っこにした。

千夏の身体は思ったよりもずっと軽くて、持ち上げたボク自身が吃驚してしまった。

ベッドに運び、着ているものを全て剥ぎ取るとボクも裸になって覆いかぶさった。

両手で千夏の頬を包み優しく唇を吸った。

そうすると千夏は直ぐに舌を絡めてきて、手を屹立したボクのモノに伸ばすと”来て”と言うように自分の方に引き寄せた。

「あ、ゴムをつけなきゃ」

そう言うと千夏は優しい目をして首を横に振ると、

「そのままの田中くんが欲しいの」

と言った。

もう数えきれないくらい何度となく入った千夏の中だけど、いつも以上に温かくて柔らかくて、ボクを締め上げるように絡みついてきた。

「うふ」

千夏がボクの首に抱き付いてきて、長い脚をボクの腰に絡めてきた。

その日はナマで格別に気持ち良くて千夏に舌を吸われた途端に果ててしまった。

千夏は指でボクの髪を梳きながら、ボクの耳元で言った。

「こんなに好きになっちゃっていいのかな」

その年の暮れ、千夏はボクの田舎についてきてくれた。

最後に近況を少しだけ。

「あなたぁ、会社に遅れるわよ」

千夏の声でボクは渋々ベッドから起き上がると洗面所に向かい、顔だけを洗って食卓に着いた。

そのまま台所を覗くとエプロン姿の千夏が忙しそうに動き回っていた。

食卓を眺めてみると焼き魚に玉子焼きと味噌汁、それに炊き立てのご飯が茶碗によそってあった。

“うわっ、また、魚か・・・”

千夏はボクの健康を気遣って、お袋よりも食事に厳しい。

そんなボクの表情を敏感に読み取った千夏がボクに、

「私の焼いた魚はご不満?」

と先制パンチを打ってきた。

「ううん、そんなことないよ。毎朝、忙しいのにありがたいなぁって」

こちらも応酬するが、もうコーナーに追い詰められている。

苦笑していると千夏がエプロンで手を拭きながらボクの後ろに回り込んできて、

「週末の前だから今晩はお肉にするね!」

と耳の後ろで囁くように言った。

この”ね!”が怖い。

いくら若くても肉を食ったからと言って直ぐにスタミナに変わるわけではないのに・・・。

今夜も多分、ボクのKO負けだろう。

でも、千夏の細い肩を抱いて目を閉じるとき、ボクは至福の時を感じて眠る。

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